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あなただけは 〜蜘蛛の巣より〜


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――わずかばかり時は遡って――


 ちりん、と鈴が鳴った。
 微睡みがちだった弥生の意識がとたんに現実に呼び戻される。
 横に倒していた上体を素早く起こし、鈴の鳴った方角を特定する。
 続いて体のそばに寄せてあった荷物を抱え、迎撃の体制を整える。
 そうして弥生は木々の陰に身を隠し、数瞬だけ様子を見た。
――近づいてくる者の気配はない――
 つまりは、網にかかった獲物はその外辺を通過し、そのまま
どこかに立ち去ろうとしているということになる。
――これ以上自らの手で、罪のないはずの人を殺めるのは気が
重い。そして、できれば私のあずかり知らぬところで潰しあって
くれれば、と思っていたのも事実です。しかし、私の張ったワナを、
無防備に通過していく人間がいるのなら。こちらのリスクを最低限に
参加者の数を減らすことができるのなら……――
 弥生は、静かに立ち上がった。
 そして、なるべく音を立てないように、かつできるだけ素早く、
鈴の反応のあった方角に脚を進めたのだった。


 間合いを詰めた弥生がその視界に納めたのは、あろう事かあの
観月マナだった。それにもう一人の少女が、伴われているが、
 それはこの際どうでもいいことだった。
 殺すことになるのならと思っていた対象が今、目の前にいる。
――マナさん、あなたさえいなければ。あなただけは私の手で……――
 その思いは、弥生自身の弱さの裏返しなのか、それとも目標を
失った弥生が作りだした歪んだ蜃気楼なのか?
 瞬間、弥生は衝動的に機関銃の引き金を引いていた。
 的を絞ることすら満足にできずに。

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