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気持ちは灰色


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朝と夜の境界。
奇妙に薄明るい光を浴びて立ち止まる人影が一つ。
教会の天窓に吸い寄せられるように集まる鳩たちを見上げ、少なからず
驚きながら、歩き出す。

最初に教会にたどり着いたのは詩子だった。
喜びと、不安を胸に息を切らせて中を窺う。
(うわ、すご…)
埋め尽くさんばかりの白鳩に囲まれて二人の少女が座っていた。
中ほどの席に見知らぬ少女。そして最後尾にいるのは…
(茜…!)

声をかけようとしたそのとき、二人の会話が耳に飛び込む。
『どうして、殺したの?』
茜に対する問いかけ。
それは、詩子自身も知りたかったこと。開きかけた口を再び閉じて、荒い
息を整えながら羽音に紛れる会話に耳を澄ます。

『……生き残るために。
 去ってしまった彼を、待ち続けるために。
 そのために、殺しました。
 ……たくさん、殺しました』
それを聞いても、不思議と驚かなかった。


待ち続ける茜の姿を、一番長く見守っていたのは詩子だった。
誰を待っているのかも、茜の思いの強さも知っている。
しかし一方で茜を待ち続ける自分がいて、そして今では茜を追う人間がいる
ことも知っている。

だから詩子の茜に対する気持ちは複雑だ。
待ち続ける茜を応援する気持ちと、不満に思う気持ちが混在している。
茜が殺人すら辞さない強い意志で彼を待ちつづけていたことは理解できても、
その行為に白黒つけることはできない。

『…じゃあ、どうしてあたしを殺さないの?』
息を飲む。
引き金を引く意志に等しい問いかけ。
曖昧さを許さぬ、強い言葉が茜を追い詰める。

『……わかりません』
茜が俯き、答える。
『……全員殺してでも生き残る、そう思って最初の一人を刺したとき。
 わたしは狂っていたのかもしれません』
祈るように拳銃を抱え、言葉を連ねる。
問いかけた少女は黙って茜を見つめている。

『本当に全員殺すなんてことができるかどうか、全く自信はありませんでした』
茜が、ゆっくりと席から立ち上がる。
『そんな中でわたしは、待ち続けようとする自分を否定する自分がいることを
 知ってしまいました』
拳銃を手にしながら組んでいた両手を、だらりと降ろす。

『そして、それを後押しする二人の存在が…わたしを苦しめるのです。
 待ち続けたわたしの過去と、待ち続けるわたしの未来を守るために、その二人
 を殺せるものだろうかと…そればかり考えていました』
鳩達が入り込んだ天窓を見上げて言う。
苦悩の深さが茜を饒舌にしていたいたが、遂に言葉を切る。
一瞬の、空白があった。

問い掛けた少女が茜から目を離してちらりと詩子を見、再び視線を戻す。
-----議論の時間は、お終いだ、そう言っているようだった。
『それで?どうするの?』

『はい……決めました』
茜がくるりと振り返るのと、問い掛けていた少女が座席の上に立ち上がるのは同時。
続いて砂煙を舞い上げるように鳩が飛び上がる。
全てがスローモーションのように緩慢に見えた。

茜の腕が上がる。
銃声が轟く。


『……わたしは、生き方を変えることは出来ません』

失われていく意識と視界の中で。
茜が泣いているのが見えた。

綺麗な涙だな、と。
倒れながら、詩子は思った。

祐一の声が聞こえたような気がしたが。
もはや、届かなかった。

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