くそったれたゲーム


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「はあ……俺達って貧乏くじだよな…」
「まあ、そうだな」
男が二人、溜息。

森の中に存在する木の小屋、施設というにも馬鹿馬鹿しいその小さな拠点の守備。
FARGO教団から狩り出されて3日目、すでに勤務態度もなげやりになりつつある。
鈴木は、この任務の為に買いだめておいたセブンスターの箱から一本煙草を取り出す。
「おまえ、ヘビースモーカーだよな……」
「そうか?まあ、こんな任務についたんじゃ吸いたくもなるぜ…田中、お前も吸うか?」
「いや、いい。煙は駄目なんだよ。前に一度試したけど俺には向かないな。
 それに…彼女が嫌がるんだよな…煙臭いのをさ」
「それ、当てつけか?」
「そうかもな、お前もいいかげんやめとけよ、体に毒だぜ」
「やめられないんだよ、こればっかりはな。お前も酒はやめられないだろ?」
「まあ…な」

このような辺境の場所の守備。
大事な何かがあるわけでもないのに、何の意味があるのだろうか。
それ以上に、このゲームに何の意味があるのだろうか。
だが、FARGO教団の命令とあらば応えないわけにもいかなかった。

はっきり言って、この任務は異常だ。
ただでさえ、人殺しのゲームなんて気分がいいものじゃない。
FARGOの中じゃ、あの高槻のように心から楽しんでいる者も多いようだが、
この鈴木、田中、そして中で仮眠中の佐藤は違う。
所属している教団の関係上口に出しては言えないが。
(こんなゲームクソ食らえなんだよ)
その思いは、大部分のゲーム参加者とあまり大差なかった。

「高槻の奴、いい気味だな…」
「そうだな…まあ、あんな奴でも少しは同情するけどな…まだ生きてんのかな…」
高槻の真の狙いも知らないまま、そう話す。

――この辺境の地の守備――なんの意味があるのか――実は意味などない。
  実はFARGOではなく高槻の命令である。
  高槻にとって、気に食わない奴等を死の舞台へと送り込む。
  単純に、それだけだった。
  巳間良祐もまた、そんな犠牲者の一人だったが――

「なあ、ここだけの話、FARGOってどう思う?」
「イカレてる…という答えでも期待してるのか?……分からない…というのが本当の所だな」
まだ入りたての下っ端である鈴木達は、まだFARGOの本当の姿を知らない。
不可視の力がどんなものかも、中で行われている陵辱の宴も。
それでも、FARGOは異常だ…位には感じ取ることが出来た。
「だが、間違っても自分の彼女を教団に入れる気にはならないな」
田中が胸からペンダントを取り、開ける。
「……それは…ロケットか?女物じゃねぇか?」
「そう言うなって…一応彼女からの贈り物なんだよ。
 もうすぐか…楽しみだな……」
「そういえばそうだったな」

たしか、田中はこの任務がなければ今頃は彼女と式を挙げていたはずだ。
「ちょっと予定が延びたけど…楽しみだよ」
この腐れたゲームが終われば……
「結婚か、うらやましいな」
「どうなんだろうな…いろいろ縛られて大変そうだけどな」
「そういうセリフは鼻の下をのばしたまま言うもんじゃないぜ」
「ん?ははは…」
ロケットを開け、中の写真を見ながら田中が笑った。
彼女が幸せそうに微笑んでいる。
絶世の美女…とはとてもいえないが、本当に幸せそうなその表情が写真の中にあった。
「やっぱさ、うらやましいよ。彼女にそんな表情をさせられるお前が…さ」
その幸せな表情は、どんな絶世の美女よりも美しく感じられた。
「鈴木、そろそろ交代の時間だろ?少し寝とけよ、ついでに佐藤も起こしてきてくれ」
「ん…じゃあ、寝かせてもらうわ…」

二人は気づかなかった。ずっと前から復讐に身を焦がせ、物陰から機会を伺う者がいることを。

ぎぃっ……
きしむ小屋の扉を開けて、中へと滑りこむ。
「まったく…ほんとに何もねえとこだよな…なにが悲しくてこんなところで……
 おい、佐藤、時間だぞ、起きろー」
何もない部屋、隅に薪用の木材が積まれているだけの殺風景な小屋。
その横で床にごろ寝している佐藤を揺さぶった。
「なんだ…もう時間か…」
眠そうな目と、だらしのない無精髭をこすりながらむくりと起き上がる。
「どーでもいいが…お前、髭伸びるの早いな」
「ほっとけ…」

そのときだった。
パララララッ、パララララララッ!!
ダン!!ダン!!
パラララッ!!
すぐ外で、銃撃の音。
「な、なんだっ!?」
佐藤が傍らにおいてあったショットガンを手に立ち上がる。
ポンプアクション式のそれを構えながら扉の外を見やる。
何の音も聞こえない。
「さっきの音…田中だった……!!」
鈴木もまた支給されたグロッグを手に、扉へと近づく。
今の銃撃戦に田中に支給されたオートマチック拳銃、ブローニングの音が混じっていた。

「田中っ!!」
イヤな予感を振り払うように扉の外をうかがう。
動く者はいない、そう、動く者は。
「たな……か……?」
動かぬ者が、一人いた。
「たなかっ!!」
ピクリとも動かない田中の周りに染みだす大量の紅の血。
「田中ーーっ!!」

――何倒れてんだよ…帰ったら挙式が楽しみだっていってたじゃねぇかよっ!!

「待て、鈴木っ!!」
佐藤の静止の声も、手も振りほどいて飛び出す。
(田中っ…彼女と…幸せになるんじゃなかったのかよっ!!)
パララララッ!!
飛び出した瞬間、鈴木の世界が暗転した。
鈴木の手から離れたグロッグがカラカラと地面をすべり、田中の体に当たって止まる。
一瞬でその銃は血に飲まれた。

「くそっ!!くそっ!!」
ドンッ!!
ショットガンが火を吹く。
パラララララッ!!
小屋の扉の向こう、林の奥から銃声が飛んだ。
幾つもの銃弾が小屋の木の壁を、扉を穿つ。
パラパラと小さな木片が佐藤の頭の上に降り注いだ。
「なんだってんだ、ちくしょうっ!!」
銃声が途切れたと同時に、扉の影からショットガンを放つ。
ドン!!
「誰だ、畜生っ!!」
クソ食らえゲームの参加者かっ!?佐藤は深呼吸しながら相手を慎重に探る。
パラララッ!!
「くっ!!」
だが、扉の影から顔を出すこともままならない。
ドンッ!!
また、狙いを定めることすらできないまま一発。
「くそっ!!」
また、弾丸が小屋を無差別に襲った。
開け放たれた扉から銃弾が中にまで侵入して、小屋を微かに揺らす。
「ちくしょう、ちくしょう、このままじゃ済まさねぇぞっ!!」
鈴木と田中、二人の盟友が、一瞬で沈んだ事実。
憎しみが、佐藤の心を覆い尽くす。
ドンッ!!――再度、ショットガンが火を吹いた。

音がやんだ。――倒したのか?
散弾が、命中したのかもしれない。
だが、油断は禁物だ…
些細な音も聞き逃さないようにしながら、慎重に扉から顔を出す。
動く者はいない――はずだった。
「ううっ……」
「す、鈴木っ!!」
鈴木のうめき声、鈴木の体が、細かく震えていた。
ドンッ!!
もう一度、敵がいたと思われる場所にショットガンを放つ。
動きはない。
ドンッ!!……さらに、あたりに何発かの散弾を浴びせる…が、やはり変化はない。
(倒したのか……)
変化がないことを確かめてから、佐藤はゆっくりと鈴木に近づいた。
「大丈夫かっ!!」
鈴木の手を取る。
「だめだっ…にげろっ…」
「鈴木っ!!」
「木の…上っ……!!」
「………!?」
ドシュッ……!!
風を切る音、肉に刃が突き刺さる音。オートボウガンの矢だった。
「がはっ……」
佐藤の体が、崩れ落ちる。
「さ、さとうっ!!」
追い討ちをかけるように、佐藤の頭にさらに矢が突き刺さった。

(なんでだ…畜生…田中や佐藤が…なぜ死ななければならないっ!!)
目の前に現れた女を憎々しげに睨む。
「主催側の人間ですね……このような場所で何をしてるのですか?」
華麗に地面に降り立ち、木の根元に置いてあった機関銃を手に取る。

「知るかよっ!!」
本当に、なんで俺達はこんな所にいるのか……
「……」
女は田中、鈴木、そして佐藤に支給されたそれぞれの武器を手に取ると、
「ここで死ねれば幸せでしょう?」
新たに手にとった拳銃を鈴木へと向ける。血で濡れた、拳銃を。
「悪魔めっ……」
どこを撃たれていたのか分からないが、すでに鈴木の体は動かない。
撃たれたら、それで終わりだ。
「悪魔……?そうかもしれませんね。ですが…」
ゆっくりと鈴木に歩み寄る女。
「あなた達もでしょう?」
冷たい微笑み。
「あなた達が作ったルール無用のゲーム…どんな行動をとっても非難される筋合いはないはずです
 たとえそれが人道からはずれていても……ね」
「こんなゲーム知ったことかっ……」
「あなた方の事情など私も知りませんわ」
「なん…だとっ?」

「このゲーム自体、参加者の都合など考えてもいないでしょう……?
 あなたが一体どういう事情でこのゲームに参加しているかは知りませんが……」
バンッ!!
「ぐあっ!!」
「あなた方を殺すことにはためらいありません」
鈴木の胸から鮮血が溢れる。
「ここで死んだほうが幸せかもしれませんよ。
 もしも私が生き残れば…どんな手段を使っても……」
さらに、三発、銃声が響いた。
「必ずあなたたちを追いつめるつもりですから。
 ゲームに関わった者全員、死よりも残酷な方法で」
(かはっ……)
鈴木の意識が遠のいていく。
「それが…私がこのゲームで選んだ道ですから」
或いは、ゲームが終わった後ですね…と、女が笑う。
「もう守りたいものは何もありません。
 私もまた、死んだ方が幸せなのかも知れませんが……」
女が、立ち去る。
「私のすべてを奪ったあなた方だけは…私は決して許しませんから」

このゲームの管理者達はすべて罪。そうかもしれない。
この女はすべてを失い、そして憎み、罪なき参加者を殺してでも生き残ろうというのか…
すべては俺達に復讐する為に。
冷たい機械のような女だったが…その背中は泣いているように見えた。
まったく、クソったれゲームだよな、田中ぁ……

鈴木が最後に思ったのは、そんなことだった。


篠塚弥生【グロッグ、ブローニング、ショットガン入手】

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