儚き魂の円舞
――それを止めたのは何だったのだろう?
「―――」 
「―――」 
空白。 
全てが止まった瞬間。 
晴香の刃は茜の腕の上に。 
茜の銃は、その矛先を祐一の顔へ。 
だが、それ以上動く事は無い。 
「どうして……」 
ようやっと、静寂を破ったのは茜の声。 
震えた声。微かで、消え入りそうな。 
「どうして……貴方は、笑ってるんですかっ……!」
そう。 
祐一は、目の前に立った死神に笑いかけていた。
その腕に、かつての友人の亡骸を抱えて。 
――晴香がその刃を止めたのは、無感情だった彼女の顔に、はっきりとした驚愕の表情が現れたからだった。
あと一歩遅かったら、その腕が飛んでいた事だろう。
「……何て言ったらいいんだろうな?」 
祐一が返す。 
朧気な笑顔で。 
だけど、今にも泣きそうな顔で。 
「なんか、酷く、お前が可哀想だと思ったんだ。哀れだって……」
「………」 
「そしたらな。何かもう、どうしようもないって感じになったんだ――諦めちまったのかな。詩子と約束したのに――」
祐一は、ゆっくりと詩子を床に下ろした。 
血が教会の床を深紅に染める。祐一は、詩子の髪を、そっと撫でた。
――もう、長くない。 
「いいぜ」 
立ち上がるや否や、祐一は呟いた。 
「俺の命、お前にやるよ」 
「……!」 
再び、驚愕。 
思いも寄らぬ言葉。 
それは晴香も同じだった。 
「あんた、何言ってんの!?」 
「俺は、俺のやる事は、茜を"救う"事だ。詩子と約束したんだ――でも、それも、出来なかった。
 なら、俺の居る意味は無い筈だ。そうだろ?」
「だからって……!」 
晴香の刀が、刃を返す。 
それは明らかに茜の首を捉えていた――茜は、それでも動かない。
目の前に立つ人しか、見えていなかった。 
「邪魔、しないでくれ」 
ようやっと放たれた、はっきりと、明確な意志の込められた台詞。
しかしそれは、明らかな拒絶。 
無言、しかし、痛々しい表情で晴香は、刀を納めた。
再び祐一の顔が茜を見た。 
「――そうだ、最後に一つ言っておきたいんだ」
「………」 
茜の返事は無い。 
しかし、銃弾が放たれる事が無いと言うことは、まだ幾ばくかの猶予を与えるということか。
祐一は、そう思う事にした。思いたかった。 
「お前が俺を嫌いでもいい――俺は、お前の事が。好きだったよ」
茜の眼から光が消えた。 
しかし、銃口は微かに震えるばかりであった。 
答えは無い。当たり前か、と祐一は僅かに残念に思った。
――結局、最後の最後も振られちまったなぁ……
「――さぁ」 
目を閉じる。 
もう、未練は無い。 
「やってくれ」 
そして。