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とことこと走る影。教会に向けて。
ピコッ…ピコッ……人物探知機の一点が強く輝く。
映し出された番号が一つに集まり、強い光を放つ。
その一点の中の番号、『001』――相沢祐一。
(祐一が…待ってるよ、みんなが…待ってるよ)
祝福の鐘が、またすぐ耳元で聞こえた気がした。

(ずっと待ってたんだから…
 ずっと…祐一を…あの日から………――?……あれっ?)

だが、彼女の思考がそこで停止する。
7年前のあの冬からずっと――その名雪の思いが、それが分からないでいた。
(どうしてだろう…思い出せない…とっても大事なことだったのに……
 私と、祐一の大切な思い出…)
祐一のこと、祐一との思い出のこと。
その部分が、ナイフで綺麗に切り取られたかのように。
それは名雪だけが知っていた心の真実。

疑問に思いながらも、彼女は強く思い描いた。これからの幸せな日々を。
(はやく祐一に会いたいな…そして美しい教会で結婚式を挙げるんだ。
 それでお母さんや子供達と一緒にあの家でずっと幸せに暮らすんだ。
 それが私と…祐一と…お母さんの願いだから)
走った。もうひと頑張りだから。
(でも、どうして悲しいんだろう…幸せなはずなのに…
 これから祐一と一緒に幸せの欠片を探していけるはずなのに)

頬を伝うのは、輝く汗、たった今溢れ出た涙。
そして、額から、後頭部から流れてきた血。
頭から、背中から、べったりとこびりついている血。
先程まで背負っていた、知らない人の血。
(どうして悲しいんだろう…泣いちゃだめだよ…祐一に笑われちゃうよっ!
 祐一の前ではずっと笑っていたいのに!)
だけど、涙がとまることはなかった。

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