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するすると樹の上から下りてくる御堂を見ながら、詠美はなんとなくサルを思い浮かべた。
「おかえり、したぼく。どう、あった?」
驚くべき身のこなしで殆ど音を立てずに地面に下り立つと、御堂は「まぁな」とぶっきらぼうに言った。
「この方向だな。そんなに離れてはいねぇ」
「こっちって言うと……あの人が走って行った方角とちょっとずれてるね」
御堂の指差した方と、秋子が去った方を見比べて詠美は言った。
「教会なんてシロモノがあるかどうか眉唾だったんだがよ。本当にあるとはな」
「あるとわかった以上、もう行くしかないよね」
『教会を探す』という、詠美の提案は彼女にしてはなかなかまともなものだった。
秋子が走り去ってから随分時間が経ったし、彼女の後を追って探すよりは
彼女の目的地を探す方が、遭遇する確率が高い。
――まぁ、再会してからどうするかは、詠美は考えてなかったのだが。
「まぁ、あんな目立つ場所に行くのは危険なんだがよ」
「でもでも、あの人が気になるでしょ。それにこれも、渡さないといけないと思うし」
「まぁな」
「あたしが決めていいって言ったんだから、文句を言わないの」
名雪の学生手帳をひらひらさせながら詠美が言う。御堂の提案で、
この生徒手帳を遺品として持って来ることにしたのだ。彼女と再会する目的として。
「しかし、上から目的地を探すたぁ、お前にしては上出来な考えじゃないか。褒めてやるぜ」
詠美のアイディアに感心する御堂のその言葉に、詠美はふふん、と胸をぐっと反らす。
「あったりまえでしょ。この同人界の女帝、クイーン詠美ちゃんさまには、
まだまだすっごいアイディアがたくさんあるんだからっ!」
「……そこまで大した考えでもねぇんだけどよ」
「それで、だ」
そこで御堂が話を打ち切る。
「そこの死にそうな毛糸玉はどうした?」
「知らないわよ。さっき、そこの林から……」
と、身動きの取れないポテトの横を指差して、
「その白い蛇が飛び出してきて、なんか睨み合ってたんだけど」
「蛇が毛糸玉に襲い掛かってやられちまったと」
「うん」
やれやれ、と御堂は白蛇をポテトから引き剥がす。自由になったポテトは
ぴこぴこと呻くと、ふらふらと地面に倒れこんだ。それを見ていたぴろがにゃあ、と鳴いた。
「それで、さぁ」
捕まえた白蛇と睨めっこしている御堂に、詠美が声をかける。
「したぼくの肩でさっきからばっさばっさしてる鳥はどうしたの?」
「知るか。さっき、木の上から教会を探してたら……」
「ばっさばっさとどこかから飛んできたと」
「ああ」
あんた、動物に好かれる変な匂いでも出してるんじゃないの? と詠美は言うと、
蛇は怖かったので取り敢えず二歩ばかし御堂から離れた。
「毛糸玉、猫、白蛇、烏、そしてガキ。……隠密行動なんてとれやしねぇじゃねぇか」
「ガキってなによ。したぼくのくせに」
ため息を吐く御堂に、詠美は言い返す。御堂はそれを無視すると、幾分声を低くして言った。
「さて、お前ら。覚悟はいいな」
ぴこ、みゃー、しゅるしゅる、ばっさばっさ、何よ覚悟って?
「わからねぇならいい。……行くぞ」
そう言うと、御堂は駆け出す。強化兵の勘が告げた予感。
ふん、上等じゃねぇかと、その予感を振り払うと一路教会を目指す。
――そこで待つものを、まだ知らずに。
【011 大場詠美 089 御堂(+ ポテト ぴろ ポチ そら)教会へ】