停滞
潜水艦ELPODは、仮説ドッグへ停泊を今も尚余儀なくされていた。
海中での自己修復は、それ自体が艦に対して負荷をかけるものであったため、
修復作業を地上で行っていたのだが、ようとしてその作業は進んでいなかった。
よって、今回の停泊時間は普段よりも長いのである。
もっとも、止まるような普段があったかどうかなどは定かでないが。
ELPODの全長は、約30メートル程度。
潜水艦としては小型の部類に入るだろう。
だが、そもそもは高槻が戦況を指揮するためだけに用いられたため、
それほど人員は必要なかった。
また島の中に戻ってくることなく、
全てを艦内で行うことが”可能”な設計にはなっていたため、
結局どこのドッグに戻ってきたとしても行うことにそれほどの差異は生じないのだ。
現在の乗員は16名。
内容は技師6名に”長瀬”直属の傭兵10名。
其の他管理用ロボットが数台である。
通信士はいない、それらも全てロボットが兼ねている。
人間の連中が扱うのは、もっと物理的な仕事ばかりなのだ。
「このジャイロが原因だったのか……」
「自立修復でカバーは仕切れたのか?」
「いや、無理だろう。
交換とまでは行かないが、これは手作業になるな……」
手早く彼ら技師の面々は作業に入った。
機械任せの作業の完全性など、ここにいる誰もが信じていなかった。
そしてその裏では丁度長瀬の傭兵たちが話し合いを行っていた。
……源之助からの通信を交えて。
「……高槻の処………いて……君……に一……が、その潜水……急に退……しても
………い。
まさ……たちま…………がや………とは思えぬが……」
「まず我々には問題ないと思われます」
隊長らしき男が答えた。
「また、ここが見つかる可能性も低く、奇襲を掛けると言うなら
こちらもまた同じ方法で逆襲することが可能です」
「……はそれ……もしい発…だ。……願わ…………なら……を……よ……」
「ははっ!」
まもなく通信は切れた。
「聞いたとおりだ。我々はいつもどおりに行う。
3交代制で見張りに着いてもらう」
「はっ」
「ゲーム終了まであとしばしの時があるが、それまでのお預けだ。
後に逃亡者、ならびに生存している”ジョーカー”連中の掃討を行う。
……少しの間、戦闘は我慢しろ」
にやり、と男は笑った。
高槻の降船は数時間前に完了した。
奴の通った道については爆破しておいたので、
もうここへ戻って来ることは容易では無くなっただろう。
無数に張り巡らされた地下の細道は、それ故に一点へ向かうことを困難にしている。
彼らの仕事はありもしない襲撃者に対しての模擬的な警戒、
そして次の戦いへ向けて休息する程度のことだった。
だが、予想外の来客はやってきた。
彼らの知らない、恐怖を伴って――。