恒星。
初音を追って走った二人――七瀬留美と柏木耕一が、その放送を聞いた瞬間に感じた事。
初音が森の中に行くのを追うのも忘れて、その放送に耳を奪われた。
へたり込み、何やら言葉を呟いて、――そして、心底、死んだような眼で、朝露で濡れた草地を、見つめる。
二人が二人とも、そんな様子だった。
ちづるさん。あずさ。かえでちゃん。
そう、聞こえた。
今まで積み上げてきたものすべてが壊れてしまったかのように。
特に、青年――柏木耕一は、握りしめた拳を何処に振り下ろせばいいか迷うほど、
いっそ、自分を殴ってしまいたい、殺してしまいたい、と思うほど、
そんな絶望的な衝撃を受けていた。
七瀬も、短い付き合いだったとはいえ、それなりに楽しく過ごした友達が三人、ここで凶刃に倒れたのだと言う事を知り、
どうしようもない、そんな顔をした。
「ちくしょぅ」
なんて、泣き出しそうな顔をするのだ。
「オレは、一体、何のために」
守れなかった。
命に代えても守るのだと、そう思っていた事が。
失われた。それも、同時に、二人。
「畜生! 畜生、畜生っ! 千鶴さんっ! 梓っ! 楓ちゃん!」
笑顔を思い出す。
淑やかで、優しい笑みをいつも見せてくれて、自分の心を救ってくれた、大切な人。
活発で、いつも明るい笑い声を聞かせて、自分の心を励ましてくれた、大切な人。
少し哀しげな、けれど、誰よりも深い笑みを見せて、自分の心を癒してくれた、大切な人。
「千鶴さんっ――、梓っ――、楓、ちゃんっ――!」
何で。
何で自分は、三人を失わなければならない?
「耕一さんっ!」
声が聞こえた。今は放っておいてくれよ、留美ちゃん。うんざりだよ。
なんでこんなところで、オレ達は命の削りあいをしてるんだよ?
もう嫌だ、全部、皆殺しにでも――
「今、そこに、高槻がいてっ――初音ちゃんの行った方にっ」
――それで、耕一は我に返った。
「――本当かっ!」
これ以上失って溜まるかっ!
悲しみに耽るのは、もう少し後にしなけりゃいけない。
千鶴さん、梓、楓ちゃん。――必ず、必ず初音ちゃんだけは、守るから。
オレが、守るから。
三人について泣くのは、それからもう少し後で良いだろう?
「行こうっ! 必ず奴らを止めてみせるっ!」
「うんっ! これ以上殺させはしないわっ!」
すぐ傍の森に入る。ここに初音は消えた筈だ――
戦場は、森。
走り、走り、初音の姿を捜す。
何処だ、初音ちゃんっ――
そこで、銃声を聞いた。
自分のすぐ、耳の裏で。
「あぐっ!」
七瀬が苦痛の表情を見せる。どうも脹ら脛の裏を打たれたようだ。
「大丈夫か、留美ちゃんっ!」
「な、なんとかっ」
襲撃者は誰だ、この糞忙しい時にっ!
――耕一は、襲撃者の姿を見て、目を丸くした。
振り返り、そこに立っているのは――初音を追っているはずの、高槻だった。