最悪の遭遇


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二人は小躍りするように先行していった。
呆れて物も言えない。
柏木初音、鹿沼葉子というエサに釣られて、立てた作戦さえ忘れて
駆け出していった。
爺どもに馬鹿にされるのもやむなし、と思うほど愚かしい。
(…最悪、だな)


まあ聞いてくれ…元々の作戦は、こうだ。
ベレッタが囮として、相手の視界に姿を見せる。
そちらに注目した相手の死角から、俺がボウガンで狙撃する。
ステアーはレーダーで位置を確認しながら随時情報を提供し、
もしもの時はAUGで二人を援護する。
基本は多勢で少数を罠にかけ、互いに援護するということだ。
この作戦は既に巳間晴香と名倉由依の二人に試して、ほぼ
成功している(誤差はあったが、安全性の高さは証明された)。


ところが、だ。
要のステアーが先行するという事は、援護もなく、情報もなく
ただ三人がそこに居るだけなのだ。
(…烏合の衆って奴だ)
溜息をついて、一人残ったマスターモールドはボルトのケースを
取り出す。
ステアーの情報をアテにして、矢は装填していなかったのだが、
今ではそうもいかない。

注意深く、毒矢を取り出そうとした、その時。
最悪の相手が走ってくるのを発見してしまった。

(か…柏木耕一だと!?復活しているのか!)
鬼の雄体。
結界の束縛さえ引きちぎり、凄まじいまでの強さを見せつけたという
恐怖の鬼が駆け込んでくる。

マスターモールドは慌てて懐の拳銃-----ニューナンブM60、こんな
名前で呼ばれたくなかったので黙っていた-----を取り出す。
そのまま震える手で発砲した。

パン、パン!

「あぐっ!」
恐怖のために弾は逸れ、女に当たる。
あの女は誰だろうか?いや、問題になるのは柏木耕一だ。
女は後でゆっくり始末すればいい。

急いで藪の中を移動しようとしたそのとき。
僅かな隙間から、偶然目が合ってしまった。
鬼が叫ぶ。
「た-----高槻!?
 あそこだ!敵は高槻だ!」
「なんですって!?」

ふん、キサマに驚かれる筋合いはないぞ、と若干落ち着きを取り戻し
発砲する。今度こそ、外しはしない。

パン、パン!

鬼の素早い移動に一発目は外れ、なんとか二発目を命中させる。
肩から掛けたシーツの中央付近に穴が開く。鬼がうめく。
「ぐっ!」
膝をつく。
(よし!)
手応えに勇気を得て、更に撃ちこむ。
「死ぬがいいッ!」

パン、-----

何がおきたか、解らなかった。
一発、発砲したものの外れた。
手を強打され狙いを外し、銃を取り落としていた。

いつのまにか、女が鉄パイプをひっさげて突進していたのだ。
こんな女が参加していたか?
こんな凶暴そうな女が-----いたか?

「女!キサマ何者だあッ!」
ナイフを引き抜いて応戦しようとしたが、これも叩き落される。
即座に拾おうとしたそれを、慣れた仕草で蹴り飛ばす。


「なめないでよ?七瀬なのよ、あたし」

ああ、そう言えば。
やたら凶暴な女子高生が参加していると、聞いた事があったな。
追い詰められながら、マスターモールドは思った。
(…最悪、だな)

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