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運の尽き


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喫茶店を出た後、弥生は山道に差しかかっていた。
次の獲物を捕らえるため、そして隠れ場所を探すため。

しかし上り坂にかかると、鞄の紐が肩に食い込む。
さっき荷物を整理したばかりなのに、やけに荷物が重い。
「何か入っているんでしょうか」
鞄の一つをまさぐると、分厚い本が見つかった。
「これ…、ですね」
弥生はそれを引っぱり出すと、足下に放った。
「それに鞄が多すぎます。私って…、欲張りなのかしら」
鞄は2つだけ残すことにして、その鞄に武器を放り込む。
銃は手持ちの機関銃を含めて6丁。
さっき置いていったニードルガンの代わりに、その中から2丁をベルトに差した。

「これで、しばらくは大丈夫でしょう」
弥生はおもむろに立ち上がり、再び歩き出した。

--

東の空からゆっくりと朝日が目の前の道を照らす。
その中を、スフィー達は黙々と山道を行く。
相変わらず神社は見つからない。無論、往人にも出会ってない。

そんな時だった。
山道を曲がった先、2,30メートルの所に人影を見た。
女性のようだ。
服は血に染まり、鬼気迫る表情。手には機関銃を持ち、さらに服のベルトには別の銃身がのぞいている。
先頭を歩いていた結花は、とりあえず後ろの二人を手で制した。
その時いきなり銃声が響くと、結花たちの頭上を弾道が通り抜けていった。

曲がり角から結花達が出てきた時、弥生も少なからず動揺していた。
今まではこちらが待ち伏せするなどして、絶対的に有利な状況を作り出していたからだ。

それでも弥生は、すかさず機関銃を構え引き金を引く。
しかし運の悪いことは重なるもの、機関銃は数発発射されただけで、あとは空撃ちの音を響かせるだけだった。
やむなく弥生は機関銃を放り投げ、ベルトから別の銃を抜いた。
銃を構えた時、弥生にはまだ一呼吸出来るほどの余裕があった。
そして、引き金を引く。「タタタタッ」と発射音が響く。
しかしその直後、弥生は右脚に激しい痛みを覚え、引き金を引いたまま地面に突っ伏した。
何が起こったのか、すぐには理解できなかった。
上目遣いに相手を見ると、痛がってはいるものの出血している様子はない。
弥生は、手元に転がる弾を見て激しく後悔した。
そう、彼女が手にした銃はエアガンだったのだ。

飛んでくる弾の痛みに耐えつつ、やっとの思いで取り出した銃から放った銃弾が相手の脚に命中したのを見て、
結花はようやく自分の体を見た。
弾が当たった腹部は痛むものの、どうやら大事にはなっていないようだ。
「大丈夫?」
「こっちは大丈夫」
スフィーの返事を聞くと、結花は銃を構えたままゆっくり前に進む。
向こうはさっきの銃を捨て、新しい銃を構え直そうとしていた。
「もう撃つのはやめて!」
説得するかのように、結花が叫ぶ。


初めての屈辱。
相手の銃弾に屈した弥生は、それでも反撃の機会をうかがっていた。
ベルトに差したもう1丁の銃―グロッグ17を取り出そうと、ゆっくり手を伸ばす。
相手は少しずつこちらに近づいてくる。「もう撃つのはやめて!」と叫びながら。

…私には、こうするしか生きる術がないんです。

ようやくグロッグを掴んだ右手を結花に向け、引き金に指をかけた。
だが、発射しようとした瞬間、脚の痛みが再び弥生を苦しめる。
グロッグから発せられた銃弾は結花の横をそれ、後方にいたスフィーの前で砂煙を上げた。
「ス、スフィーになんて事するのよ!」
もう一度、結花のデザートイーグルが火を噴いた。

再び飛んできた銃弾は、弥生の右肩に突き刺さった。
右手の力が抜ける。目の前に血の流れが見える。
左手で銃を持ち替えようとするものの、手が言う事を聞かない。
「終わり…ですね」
弥生は、絞り出すような声でつぶやいた。

…どこで、歯車が狂いだしたんでしょう。

一瞬脳裏に浮かんだのは、昨晩男女二人を撲殺した現場。
あのとき持っていった鞄の中に、エアガンも入っていたなんて。

「もうやめて!」
結花が、弥生の左腕を掴む。
「どうして、どうして人を殺そうとするんですか!」
「…そうすることしか、私には残されていないからです」
弥生は、静かに語りだした。

「…私の知っている人は、もう死んでしまいました。私には、守るべき人も、守りたい人もいません」
「……」
「だから、私は決めたんです。最後の一人になって、生きてこの島を出ようと。…今となっては、もう無理ですけど」
弥生は前方を見遣りつつ、
「スフィーさん…でしたか。あなたには、守るべき人がいるじゃないですか」
「そうだけど…」

その時、二人のやりとりを遮るかのように、放送の声が辺りに響いた。
『おはよう、諸君。これから定時放送を行う。』
死んだ者の名前、生存者の名前。
次々と読み上げられる名前を、みんな黙って聞いていた。

「あの中に、私が殺した人の名前もありました」
弥生が口を開く。
「いったい何人殺したんですか?」
「忘れました…。ただ、私はここまで無闇に人を殺し過ぎました。今は、その報いかもしれませんね」

薄れ行く意識の中で、弥生の脳裏にあの二人の顔が浮かぶ。

…由綺さん、藤井さん。こんなに早く、そちらへ行けるとは思いませんでした。

「だから、あなたこそ…生きてください。それが、死んだ人達の願いでも…あるはずです…」
そう言い残し、弥生は事切れた。
後には、結花の嗚咽の声だけが響いていた。

「私…、殺してしまった…」
泣いている結花の元へ、スフィーと芹香が歩み寄る。
「……」
芹香のささやかな慰めの言葉に、結花はようやく泣き止む。
「この人、マネージャーさんだって」
参加者名簿を見たのか、スフィーが告げた。
「普通の人なのに、ここまで変われるんだ…」
「私、わたし、どうすればいいの? この人みたいに、最後の一人になるまで殺し合いするの?」
「落ち着いて!」
「……」
「…ごめん」

「そう、弥生さんが言ってた。あなたには守るべき人がいるじゃないかって」
「それって、私たち?」
結花は小さく頷いた。
「私たち、何があっても一緒にいよう。リアンや綾香さんだってそう願ってるんじゃないかな」
「……」
「うん」
「じゃ、指切りしよう」
そういって指を出そうとした時、
「でも、3人同時に指切りできないよ」
スフィーの言葉に、結花は思わず吹き出した。
「あっ、そうだね」
結花はスフィーと、その後に芹香と指切りをして、3人の絆を誓い合った。

しばらくして、結花が歩き出そうとした時、
「……」
芹香が結花の裾を引っ張る。
「?」
「……」
「武器? もういいわ。あまりたくさん持ってても仕方ないし」
「……(ふるふる)」
芹香の懸念は、このまま武器を残しておくと誰かに使われる、という事だった。
「…そうね」
結花は、弥生の手元に落ちていたグロッグ17を拾い上げ、
「スフィー、これ持ってなさい」
と手渡した。
残りの武器は鞄にまとめて、そばの茂みに穴を掘って埋めた。
他の誰にも見つからないように。

そして、3人は歩き出した。結界の待つ神社に向かって。

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【047 篠塚弥生 死亡。残り32人】

スフィー【グロッグ17(←弥生)を入手】

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