疾駆
「………」
耕一は。
大きなシーツに穴を開け、片膝を付きつつ。
目の前の光景に呆然としていた。
"高槻"が、後頭部から血を噴出して倒れていた。
顔面から地面に叩き付けられ、僅かに跳ね、そして動かなくなる。
七瀬は、撃たれた足すらものともせず、静かに、陽光を浴びて、立っていた。
その姿。何と、恐ろしくも――美しい。
(――おいおい。冗談だろ……)
そこには、確かに戦士が居た。
耕一の出番が無い程、である。
――パァァン……
―――っ!
そこに響く、銃声。
続く悲鳴。
耕一の耳が、森の奥から届いたそれを、確かに捉えた。
あの声は、間違いなく――
「――初音ちゃん!?」
まずい。確か、"高槻"は二人居た。
その内の片方が、初音に襲いかかったとするならば。
――くそっ、こんな所でのんびりしてる場合じゃない!
「留美ちゃんっ!」
振り向けば、七瀬は、草むらに落ちたナイフを拾い上げていた。
顔を見合わせる――頷く。
「そいつを頼んだ。俺は――初音ちゃんを」
「……でも、こいつ、どうすんの?」
――見れば、"高槻"が草の中に顔を沈めて、痙攣を起こしていた。
どうしたものか?
「……好きにしてくれ」
それだけ言って、駆けだした。
――後ろで七瀬がどうしたか僅かばかりに気になったが、振り向く暇は無かった。