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The Little Sister


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 初音は、一瞬、自分を助けようとしてくれた金髪の女性に目をやったが、それより
も優先すべき事項のために考えを切り替えた。
 地に伏した彰に駆け寄り、その体を抱きかかえるようにして草むらまで動す。
 背負ったときには気が付かなかったが、華奢な見た目からは想像できないほどに、
彰は重かった。しかし、初音にとってはそんなことはどうでも良かった。
 そして、初音は彰の顔を見つめながら叫んだ。
「彰お兄ちゃん、死なないで! お兄ちゃんが死んじゃったら、あたし、もう……。
 お姉ちゃん達はみんな死んじゃった。あたし、ひとりぼっちになっちゃったよ!」
 流れ落ちる初音の涙が、彰の顔を叩いた。
 彰がゆっくりと何回か瞬きをした。
「お兄ちゃん!!」
 初音はうれしさのあまり、彰の顔をぎゅっと強く抱きしめた。
「は、初音ちゃん、苦しいよ……」
 今度は慌てて体を離す初音。
「彰お兄ちゃん……」
 彰が意識を取り戻したことで、初音は一瞬だけ安心した表情になった。
 しかし、それもすぐに曇った。
 姉たちの死を思いだしたのだろう。
 彰はゆっくりと息をしながら初音に言った。
「初音ちゃん……。君はまだ一人じゃない。君の大好きな耕一さんも、生きている
 はずだ。君はひとりぼっちじゃない……」
「でも! もうお姉ちゃん達はみんな死んじゃったんだから。もう、あのころには
 戻れないんだから。千鶴お姉ちゃんにも謝ってなかったのに、梓お姉ちゃんも、
 もう、私の相手をしてくれない。楓お姉ちゃんだって、みんな……。もう、みんな
 死んじゃったよ。私、もう、どうすればいいのか……。どうやったって私……。
 これからうまく生きてなんかいけない。あのころに帰りたいよう……」
 初音ちゃんは声を殺すこともせずに泣き出した。

 彰はしゃべるだけでも既に辛くなってきていたが、あえて体を動かし、初音の頭を
撫でるようにしながら言葉を紡いだ。
「こうして初音ちゃんはまだ生きてる。ならばこれからも生きていけるはずなんだ。
 僕の友人達もみんな死んでしまった。僕の大切な人だった美咲さんも死んでしまった。
 だから僕も、僕の日常はもう何処にもなくなってしまったと勘違いしかけていた……」
 初音の頭を撫でる手は止めずに、呼吸を整える彰。
 初音は彰の次の言葉を待っている。
 彰は美汐達に語った自分の言葉を思い出しながら、ゆっくりとそれを口に出す。
「けど、僕は思うんだ。確かに今まで僕らが思い描いてきた日常はもう手に入らない。
 そう、だけどね、初音ちゃん。……日常は、そこを日常なのだと思えば、きっと、
 そこが日常なんだよ。過去を切り捨てろなんて言わない。でも、未来を思って生きて
 いくことはそんなに悪い事じゃないんじゃないだろうか……。繰り返すことになる
 けど、初音ちゃんには耕一さんもいる。彼も初音ちゃんを心配していたよ……。
 まずは彼を安心させてあげるのも、良いかもしれない……。そして、今度彼を見つけたら、
 もう離れてはいけない……。これ以上、喪失の悲しみを味わうことの無いように……」
 彰はどこかで見聞きした覚えのあるフレーズを思い浮かべた。
 『愛し合う二人はいつも一緒、そいつが一番だ』
 そして、自らの思い浮かべたそのフレーズを契機に、彰の思考は別の方向に走りだした。
――嗚呼、僕も美咲さんともっと一緒にいたかった。冬弥と由綺は最後まで一緒だったん
 だろうか。初音ちゃんと、耕一さんはもう一度出会えるんだろうか。祐介と美汐さんは、
 無事生き残ることができるだろうか。僕の代わりに、ゲームに終止符を打ってくれる人は
 いるのだろうか。それから、それから、それから……――
 彰は意識を保っているのが辛くなってきた。
 思考も真っ当に働かなくなって、とりとめが無くなってきている。

「ごめん、初音ちゃん……。本当は一緒に耕一さんを探しに行きたいんだけど……。僕は、
 もう……。少しだけ、眠らせてくれないかい……?」
 すうっと、彰は目を閉じた。
 その彰の表情は、人を安心させるあの独特の笑顔にも似ていて、けれども、どこか寂しげ
でもあった。いろいろと心残りがあるせいかもしれなかった。
「お兄ちゃんッ! 彰お兄ちゃーんッ!!」
 初音の絶叫があたりに響き渡った。

【彰の生死はあえて不明とするが眠れば回復するかも
 →防弾チョッキを着ているから今回のが致命傷になることはない。
  しかし、これまでの累積ダメージは結構なモノ】

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