インターミッション
朝焼けは去り、空気だけは穏やかな雰囲気の中、二人は寄り添って砂浜で海を眺めていた。
彰が去ってからすでにしばらく経ち、遠くの空でサイレンの音とともに定時放送が流れる。
祐介はそれを聴くともなしに聞いていた。
死者と生者を分けるその声の中に、もう上がることすらもない人達がいる。
薄れていく存在は、みな、彼岸へと去ってしまった。
声にしないともういないことになってしまう、大切な友達が、何人も何人も。
祐介は膝を抱えた。
(でも…、悪いけど今だけは、君たちのことを考えてはいられない)
ぎゅっ、と目を閉じる。
(だから、僕にはこのくらいのことしかできない)
祐介は、名も知らぬ死者達のために、よく知った死者達のために、祈った。
その行為は、彼の心を少しは楽にしていた。
長い黙祷を終え、祐介は眼を開く。
目を閉じる前よりも強くなった光が、祐介の網膜を心地よく刺激した。
「ああ…」
知らず、ため息が出る。
「どうかしたんですか?」
隣で、美汐が訊ねる。
「え…、いや」
答える祐介の声は、どことなく空々しい。
何か考えているんじゃないですか? という美汐の問いに、祐介はしぶしぶ答える。
「うん、ちょっとした作り話を考えてた」
「それは、どんな話だったんですか?」
美汐は、祐介の正面に回り、彼の目を見つめた。
その顔には、安らぎの表情が見て取れた。
「ここが、ここじゃなければなぁ、って」
「……」
「いや、わかってるよ。彰兄ちゃんの言う通り、ここが現実なんだから、ね」
「祐介、さん…」
でも、ただ『もしも』の話を考えただけで、こんなにも涙が溢れてくるのはなぜだったのだろう。
「もう、いいかげんに泣き止みませんか、祐介さん」
「…泣いてるんじゃなくて、涙が、勝手にさ」
そう言う祐介の両腕は、とめどない涙でびしょびしょに濡れている。
もちろん、顔のほうも酷い有様だ。
「ごめ…、ちょっと顔洗ってくる」
「え?」
祐介がてこてこと向かう先は、海辺。
「ちょ、ちょっと祐介さん、海水なんかで顔洗っちゃ…」
美汐の懸命の静止にもかかわらず、長瀬祐介(064)は無言の叫び声を上げた。
【長瀬祐介 海水が目に染みて悶絶中】
【天野美汐 そんな祐介を見ながら微笑んでいたり】