ぬくもり。
――嫌だ。
失いたくない。
目の前で、二人の人間が、傷ついて、傷ついて――。
涙が溢れる。だが、その涙の価値は、何処だ?
涙を拭く。今は、そんな事より、行動しなければ、――初音は、彰を背中に背負う。
足に激痛が走るが、果たして今の自分に、どれほど、これが邪魔をするというのだろう?
青いを通り越して、既に白くなってきている顔色。
唇を噛み、初音は呟く。
「絶対、死なせないっ――!」
ちらり、と少女――鹿沼葉子を見る。
今の自分の体力で、二人の人間を運べるのだろうか?
正直、厳しいだろうとは――思う。
けれど、彼女は、――自分を助けるために傷ついたのだ。
だから、初音は決意をした。
右肩には彰を、そして、左肩には、その少女を。
なんて、重いのだろう? これが、命の価値か?
殆ど一歩も動けないほど、それは重かった――。
だが、それでも、初音は。
じりじりと、歩き始めた。
何か薬が、休息設備があるだろう、街に向けて。
そこで、初音は――また、気配を感じた。
何かが走り寄る音。それは、まさか。まだ、いたと言うのか?
敵が――
「嫌だっ!」
二人を抱えて速度は出ない、けれど、逃げるしか――
「待てっ! 初音ちゃんっ」
――はぁ、と息を漏らして、そこに現れたのは、――柏木耕一、だった。
泣きながら走り寄る初音を抱きしめようとして、躊躇われたのは――
その口から漏れた言葉が、けして自分に会えた事に喜ぶものではなかったから、だった。
「助けて! 彰お兄ちゃんが、お姉さんが、死んじゃう――」
泣く。――死ぬほどに、泣いている。
自分の顔を見た瞬間に、だった。それ程、不安だったのだろう。
見ると、二人――特に少年、七瀬彰の方は深刻な顔色だ。
傷つきすぎているほど、傷つきすぎたその様子。
先に会った時にも相当傷ついていたが、あの時とまるで表情が違う。
額から流れるものは、いつから流れ始めた。
その流れた血を拭おうともしなかったのだろう、
白くなった顔にこびり付いた、鉄の匂いのする赤いモノは、
あまりにも禍々しい。そう感じた。
ともかく、腹から血を流している少女の様子も含めて、あまりに危険すぎる、と思った。
初音は、きっと一人でこの二人を運ぼうと、そう考えてさえいたのだろう。
「ああ、判った、判ったよ。大丈夫だ、街はすぐ傍だ」
云って、耕一は、哀しくなった。
「うん、行こう!」
ここにきて、姉を皆失った事を知って、それでも尚――彼女は、強かった。
すごく、強くなったと思う。
――自分も、大切な人を三人失ったのと、同じ事を意味する。
守れなかった口惜しさ。逢えなかった苦しみ。だが。
だが、今はまだ、泣くわけにはいかないだろう? ――千鶴さん。梓、楓ちゃん。
もう少しだけ待ってくれ。もう少ししたらいっぱい泣くよ。
君たちの、可愛い妹は、まだ――
涙を拭って、前を向いているんだからさ。