追想。
七瀬は目を閉じて、――少し哀しそうな顔をした。
けれど、これ以上立ち止まっているわけにはいかなかった。
潜水艦が本当にあるかどうかなど知れぬ。
けれど、――最後に、この男が見せた微笑みを、なんとなく信じたくなった。
耕一の後を追う事にする。足に多少の痛みは走るが、まあ、走れないほどではない。
高槻が持っていた銃を、手に取った。――もうあまり使う事はないだろうが、
何故か、持っていきたいと、願った。
「あきこ、か」
何処にでもある名前だ。
けれど、きっと――高槻という、この男にとって、すごく大切な人の名前なのだと、そう思ったから。
正直、最低だった、この男もまた、――生きていたのだから。
――初音が葉子を、耕一が彰を背負いながら、森の中を走る。
足を痛めている初音は、それでも必死に走る。それを横目に、耕一も走る。
森を抜け、街が見渡せるところについた時、後ろから声が聞こえた。
「耕一さーん、初音ちゃーん」
息を切らせて駆けてきたのは、鉄パイプと拳銃を持った、七瀬留美、だった。
「お姉ちゃん!」
「うん、久しぶりね、初音ちゃん」
――初音の様子を見て、少し安心した。
別れた時に見た、あの脆弱な様子は、今の様子からはまるで見えない。
切羽詰まってはいるが、あの時より、ずっと強い眼だ。
姉が――死んだというのに、それでも、ずっと、強い。
そこで、初音が背中に背負った少女の顔を見て、七瀬は叫んだ。
「葉子さんじゃないっ」
どうも、この少女が、件の鹿沼葉子、だったらしい。
苦しそうに顔を歪める葉子と彰に、七瀬は不安を抱かざるを得なかったが、
――ともかく、五人は、街にたどり着いた。
【七瀬留美 柏木耕一 七瀬彰 柏木初音 鹿沼葉子 街に到着
彰も葉子も割と瀕死。耕一は未だ無傷、七瀬と初音は共に足に怪我】
【高槻 長瀬打倒の目的を果たす事もなく、全滅】