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断罪(前編)


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体の中が、熱い。
脳がうねるような感覚。
体が解けてしまうような感覚だ。
僕の新型爆弾。次々と地球へ爆弾を落としていく。
地球上の人々が阿鼻叫喚の悲鳴をあげ続ける。

まるでいつもの妄想の中にいるような感覚だ。
瑞穂ちゃんが、沙織ちゃんが、瑠璃子さんが、月島さんが…
天野さんが…みんなが、
「助けて!」
と口々に叫ぶ。

規模こそ小さいが、この島は、その世界によく似ていた。
あさましい、血で汚れた地獄の世界。
自分だけは助かりたい…と、口々に叫ぶ愚かな人達。


僕は、無慈悲にも最後の爆弾を、書いた。



「………」
ゆっくりと目を開く。
見たことのない部屋、見たことのない場所、知らないベッド。

ゆっくりと朦朧とした頭で、あたりを見回す。
「気がついたのか?祐介」
男が、いる。
部屋の隅に置かれた事務用の机の前に座って。
物音に、椅子ごと回転させてこちらを見やる。
長瀬源一郎。よく知っている人物。
祐介の、叔父だ。
「……」
あれほど会いたかった叔父に出会ったというのに、心はまったくと言っていいほど動揺しなかった。

「ああ、そうか…
 そう硬くなるな。ここには、俺とお前だけしかいない。
 いろいろ話したいこともあるだろうが……とりあえず落ち着いてろよ」
別に動揺などしていない。至極落ち着いている。
寸分違わない自分の心音の音が妙に大きく聞こえる。
規則正しく血液を送り出す音。その振動までが体中を軽く震わせる。
「お前は、ここに来たんだな」
その台詞に祐介は自分の手を眺める。血の赤。
乾いた血の跡が、こびり付いている。
ようやく、祐介はその自分の置かれた状況を思い出した。
だが、心が騒ぐこともなかった。

「祐介、ここは、ある選ばれた人間しか入れない場所だ。
 いや、正確には…ある選ばれた人間は入れない場所…とでも言うべきか」
カチッ……
ジッポを取り出し、煙草に火をつける。
紫煙が宙に舞った。いつもの叔父の銘柄の煙草だ。
昔、よく嗅いだ匂いが祐介の鼻をつく。
「胃爆弾…あったよな?」
紫煙をひとしきり吐いてからそう切り出す。
「取り出すと爆発する、遠くへと逃げると爆発する…そういう設定だったな。
 爆発する…という設定は放送で流れた通りだ。解除されている」
源一郎が美味そうに煙を吸った。
「確かに解除されたが…別の機能はいくつか残っている」
源一郎が口にだすことはなかったが、爆弾の現在位置捕獲センサーもそのひとつだ。
「今回のも、それだ。爆弾を体内に入れた者がこの施設に入ることは許されない。
 お前は、そんな所に迷いこんだんだよ」
「……」
源一郎は、『お前達』とはあえて言わなかった。
「……ここは、そんな場所だ。隔離施設、というわけだ」
祐介がここに入れた理由、それは長瀬という名に置いて、爆弾を取り付けられることのなかった
イレギュラーの参加者だからだ。
――他にもロボという理由に置いて取り付けることができなかった来栖川製のメイドロボの参加者が
  約2名いたが、死んだ、いや壊れた今となってはもはやどうでもいい話だ――
「お前は、俺達を、恨んでいるか?」
どのような意味が込められているかは分からないが、そう、聞いた。

「汚いかも知れないな、俺の意見も言わないで」
黙っている祐介を見て、源一郎は力無く笑った。
短くなった煙草を銀色に鈍く光る灰皿でもみ消すと、すぐに2本目の煙草に火をつけた。
「煙草が多くなってイカンな……。学校ではガミガミ言われたもんだが、ここでは
 誰も文句は言わないからな」
「……」
「それはまあ、置いといて、だ。
 俺は、このゲーム、あまり好きじゃない」
ピクリと、祐介のこめかみが動いた。
「御老達がどう考えているかは知らないがね。
 少なくとも、俺と、フランクは好ましく思っていないはずだ」
正確には、フランクは寡黙すぎてよく分からんとこもあるがな…と笑った。
「正直、すまなかったな。言葉で言えば、陳腐かも知れないが。一応、言っておきたくてな」
「………」
「お前は、ゲームの参加者だ。だが、今までの話で気付いてると思うが、お前には爆弾が入っていない。
 爆弾は生死判定も兼ねている。お前と…あと彰だな。その二人は死んでも確認されない限り放送されない」
――ちなみに、セリオとマルチは、長瀬源五郎が別の手段で生死判定装置をつけていたので、それで判断している――
「お前と、彰、そしてもう一人の誰かの三人だけが生き残ったら、おそらくはこのゲームは終了だろうな」
判断する手段がないからな、と笑った。
「まあ、つまり、だ。おまえは――ここにいろ」
「……」
「……残念だが……」
かなり言葉を選びながら、ゆっくりと切り出す。
「お前と一緒に行動していた少女は、保護できなかった。
 とりあえず命に別状がない程度には手当てしてはやったが……
 保護は、できない。俺に出来るのは、お前だけだ」
悲痛な顔。祐介は、ただその歪む叔父の顔を眺めていた。本当に『ただ』眺めていた。

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