郷愁
「全く……どうしてこう無茶をするのかしらね?」
あきれたように郁未は言った。
――再会の瞬間は、ひどく滑稽だった。
「……凄い格好ね」
「君のほうが凄い格好だよ」
思い出したかのように郁未は体を見回す。
……黒い貞操帯、放っといたままだった。
「い、い、いろいろあったのよ!」
「いや、それにしてもその格好は――」
「し、し、仕方ないじゃないのよ! 人助けよ人助け!」
「どういう人助けなんだか――」
「だって放っておいたらあっちの方が私よりずっと悲惨――」
そこまで言って、郁未はハッ、と思い出した。
ブルマの上からスカートを履いている耕一の無残な姿を。
しかしそんな郁未にも予想出来てはいなかった。
――まさか今ごろ耕一がコスプレさせられる羽目に陥っていようとは――。
「てっきり露出狂の気があるのかと――」
「何であなたがそんなこと知ってるのよ!?」
「――――え?」
――結局、恥ずかしい思いをしたのは郁未だけだった。
紅い顔をしながら、郁未は少年の髪を拭う。
服に染み込んだ血は拭えないが、せめて顔と髪だけでも――。
「それで? 結局何がどうなってたのよ」
「……潜水艦が在った」
「はあ?」
「地下の空洞に、潜水艦の停泊場所があった」
「えーっと、それって……」
郁未はちょっと顎に手を当てて考える。
「ちょっと!! それって凄いことなんじゃないの!?」
「まあね」
「やったじゃない! それがあればこの島から簡単に脱出――って、ダメか」
「……ん」
「どうせ敵の人間がいっぱい乗っている、っていうオチなんでしょうね」
「……いや」
「え、乗ってなかったの?」
「……乗っていた」
「じゃ、ダメじゃない」
「……いや」
「?」
「……もう、乗っていない……」
「……何で?」
「……」
「……」
「……」
「……まさか」
「……」
「……全員殺したなんて言わないでしょうね」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ふぅ」
ため息を一つ、そして郁未は言った。
「ほんとに、凄いことするわね――」
そのセリフは、たまらなく優しく響いた――。