笑顔
「それで、結局どうなったの?」
「その話、さっきしなかったかい?」
「だから続きよ続き! 潜水艦は結局どうなったのよ?」
「ああ……」
少年は、埋もれたまま建物に目を走らせて言った。
「放ってきたよ」
「何で? もう敵の人間はいないんでしょう?」
「だからと言ってどうすることも出来ないよ。
僕だけ逃げることは出来ない。
高槻ともまだ出会えていない……」
「高槻……」
二人はまだ、全ての高槻が死んだことを知らず――。
懐かしい人物との再会は、なんとなく饒舌なムードを作り出す。
郁未は、ここに至るまでの出来事や出会った人たちのことを話した。
耕一の話のときは笑いが漏れて、秋子の話のときは少し暗く。
特に、郁未の母親が殺されたことは重い話だった。
少年は「そうか」と言ったきり、黙って彼女の話を聞いていた。
少年の話はそれより少し長引いた。
往人との交差から始まって、郁美と言う郁未と同じ少女との出会いと別れ。
やたら元気だった少女――詩子――の話。そういえば、彼女は元気にしているだろうか?
そしてその先で発見した良祐の死、その後の葉子との邂逅。
「葉子さんに会ったの?」
少年は頷いて、元気そうだったよと言った。
それから、彼女も高槻を追っていたことを付け加えた。
それを聞いて郁未がほんの少し嬉しそうにしたのを、少年は見逃さなかった。
最後に、蝉丸との出会いと地下への侵入の話で終わった。
「そういえば、あの人たちには私も会ったのよね」
と、蝉丸たちのことを思い出し、郁未は一人頷いた。
「地下施設への入り口は……そこに埋まっている」
「うわ……これは見つからないわね」
自分の目でそこを見て、いやそうに郁未は言った。
「でも……、少なくともここから潜水艦まで直行できる」
少年は真剣な口調で言った。
「生き残った人たちだけでも、あれに乗せて逃がしたいところだけど……。
郁未、最悪僕が死んだときは君だけでもこれに乗って――」
ちゅっ。
――少年の言葉は、そこで止められた。
「……郁未」
「……バカよね、あなたって。私一人で帰れたって、何の意味も無いじゃない」
郁未は笑った。とても、まぶしく――。
「葉子さんも、晴香も、他の人たちも……あなたも。
――みんなで帰ろうよ」
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「――――――――――うん」
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