罪と罰
たぶん、あれが一番の罪だったのだろう。……私にとっての。
気が付いたら、憂鬱。気分が、晴れない。
どうしたのだろうか。
自分の置かれている状況がよく感じ取れない。
(確か……)
長瀬さんと、一緒で…
海水で顔を洗った、見かけによらずお茶目な彼を笑って。
こんな島だけど、少し自分が幸せに思えて。
こんな状況なのに、悲しんでる人もいるのに。
本当は私も悲しまなければならないのに。
だけど、ささやかだけど、確かにあった幸せだった瞬間。
海岸沿いを歩いて、そして…
「墓石……」
そう、墓石だった。
長瀬さんが寄りかかった墓石がまるで下に滑車が付いているかのように動いて…
「それで……」
中に入った。
(それから……?)
中にある【Stuff Only】の扉…そこに入ってから急速に光が私を包んで、
(そこから先が思い出せない……)
軽く、頭を左右に揺らす。かすかに…といった程度のものだけど。
長瀬さんの……
――うん、わかった。何があっても僕はこの手を離さない――
えっ……
私の…
絶対離さないはずの右手の……
感覚はなかった
「な……」
何…これ……?
なんで…?
――ガサッ……
わたしが…
「い、いやあああああああああああああああっ!!」
長瀬さんが……
「………」
茂みから出てきた影。
「ゆう…す…け…さん?」
手に握られていた、私の、右手。
「い、いやっ……いやあぁ―――――――――――っ!!」
突き飛ばして、駆けた。
「はあ、はあ……」
もう、どの位走ったのか分からない。
「私の…みぎ…て…」
右手を見た。地面が見えた。
「いやっ……わたしっ……」
そのまま、景色が遠のいていって――消えた。
たぶん、あれが一番の罪だったのだろう。……私にとっての。
――絶対に離さない!僕が守り通してみせる!!――
――……長瀬さん…信じていたのに――
――君の手をこれ以上汚す事は無い。僕が自分の手で――自分を殺す、よ――
――私は長瀬さんを信じます。今度こそ、最後まで――
どうして、信じてあげられなかったんだろう…
私は、逃げてしまった。
また、私は長瀬さんから逃げてしまっていた。
長瀬さんが、斬った。
長瀬さんが、私の……を持っていた。
錯乱状態の中で、私は、長瀬さんが…恐くて。
そうしなければ、壊れてしまいそうで。
――ダムの小さな亀裂をを塞ぐように…
私は駆けた。
私の罪。あそこでもし、逃げなければ――また変わっていたのかもしれない。
未来が。
たぶん、それは、私にとって消えることの無い心の痛みなのだろう。
あの子が光の中に消えてしまった――あの時のように。
【天野美汐 再び気絶】