命を越えて伝えるもの
ザッザッザッザッザッ……!
――遠ざかる足音。
……逃げられた。
何故、逃げた?
……当たり前だ。
突然、失った自分の右手を持った人物が現れたら。
例えそれが誰だったとしても。
疑われない筈は無い。
きっと。
彼女の中で。
自分は、彼女の右手を奪った人になってしまったのだろう。
酷く、哀しかった。
だが。
――正直、撃たれなかっただけでも良しとした方がいい。
彼女はデリンジャーを持っていた筈だ。
それが自分の身体を貫かなかっただけでも――
幸運だ。
―――。
或いは?
――僕だから、撃たれなかった、なんて思うのは……自惚れだろうな。
―――。
探す?
しかし、いずれにしても同じ結果になると思うのだが。
彼女は自分の姿に怯え。
そして逃げた彼女を追う。
……だが彼女を放っておけるか?
答えは、ノーだ。
この島に。
どんな殺人鬼が潜んでいるかは分からない。
その中で、一人。
放っておける筈が無い。
……手段としては。
彼女から見えない位置で、護る。
つまり、彼女の見える位置にあれば良い。
出来れば、すぐに駆け寄れる場所に。
木の上が最も理想的だが――移動が困難だ。
しかし。
――まるでストーカーみたいだ。
そんな事を思って。
一人、微かな笑みを零す。
思いのほか、すぐ近くにその姿はあった。
草の上に倒れていた。
顔が青い――恐らくは、貧血だろうか。
抱え上げた。
妙に軽く感じる。
近くの木陰で下ろすと、自分もその隣に座った。
右腕の包帯。
その先には――何もない。
顔を顰めた。
自分を、戒める。
――アノトキ、ボクガモットチュウイシテイレバ――
――アノトキ、テヲニギッテナンカイタカラ――
チリッ――
電波の衝動。
悔やめども、悔やみ切れぬ――
その、残酷としか思えぬ事実。
償うには、もはやどうしようもなさ過ぎて。
己を、酷く不甲斐なく思った。
――畜生。
――畜生、畜生、畜生。
――畜生、畜生、畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生――。
チリチリチリチリチリチリチリッ――
流れ。
行き場の失ったそれが、酷く自分を――癒す。
元来、それは「壊す為の物」。
――僕は、壊れてしまったんだろうか?
破壊。
破損。
壊滅。
かつては感じた、甘美な響き。
それはもはや感じられず。
ただ、空しく感じるだけで。
――不意に隣を見れば。
肩を並べた少女が、涙を流しているのが見えて。
決意する。
自分は。
――僕は。
今度こそ――彼女を護る、と。
その為なら。
――タトエ、キミニ、コロサレタトシテモ。
コノイノチ、オシクハナイ。
【005天野美汐 気絶中】
【064長瀬祐介 美汐が起きるまでの間だけ隣に】