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運命の輪


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市街地を抜け、しばらく草原を横断したところ。
朝の光を浴びながら、柔らかな草の波を掻き分けて、ふたりの少女が
漂流していた。

遠目に後ろから見れば柏木初音と、その姉-----楓、に見えなくもない。
しかし、それは現実にはありえない組み合わせだ。
「七瀬なのよ、あたし」
そう、それは七瀬留美。
初音のボディーガードを自称するという矛盾の乙女だ。

ふたりは、柏木耕一と七瀬彰を追っている。
もともと迷いはあった。
ひとつは、先行した二人を追うこと。
これは初音の希望でもあるし、二人の助けになれば…という思いもある。
もうひとつは、潜水艦がどこかにある、という高槻の言葉。
七瀬は、その疑わしい言葉を信じている。
だから、そうした沿岸部の施設を捜索するべきなのかと思考を巡らせていた。

しかし、その時(小さいから解らなかったのか)忽然とあらわれた、さすらいの
女医(ヤブっぽいけど)観月マナによって迷いは吹き飛んだ。
死んだはずの、柏木家の長女と次女が生きている、そして初音や耕一を探すと
ともにゲームの主催者達と対決する決意を見せていることを。

「…でさ」
頭の後ろで手を組みながら、いくぶん緊張感なさげに七瀬は言う。
「ずんずん進んでるけど…なんかの、目星はついてるの?」
「うん。
 -----マナさんの話にあった、バイクとロボットの話なんだけど…」
「それが、あの二人とどういう関係になるの?」
七瀬にはさっぱり解らない。
年下の少女に教えを請うように、あとを促す。

「うん、そのロボットなんだけど。
 参加者に来栖川製のロボットが二体いたのを除けば、この島では珍しいでしょ?」
「そういや他には見ないね。
 主催者側の手伝いにいるくらい…」
「だよ、ね?」
そうだ。
戦闘用のロボットが出現するようなところは、裏を返せばそれなりの重要施設が
あるということなのだ。

ふたりは丘を登り始める。
-----思った以上に、目指す二人は近かった。


その殺風景な岩山にくり抜かれた出入り口。
それは、いかにも軍事施設と言い張っているようにしか見えない。
岩場に巧妙に隠され、簡単には発見できないはずのそれを、目立たせる存在があった。

施設への通路守るように、不似合いな人影が仁王立ちしている。
小柄な女性の姿。
しかし、容姿に似合わぬ威圧感が彼女にはあった。
戦闘ヘリに匹敵する機動性と、砲弾の直撃に耐えうる装甲。
そうした性能は、顔付きさえ変えてしまうのだろうか。
人への奉仕のために作られた彼女の姉妹とはかけ離れた、厳しい表情を浮かべて
ひとり、立ち尽くしている。

「彰君…あれ、なんだろう」
林立する岩塊のうしろで、気味悪そうな声を出す青年がいた。
「なんです耕一さん?
 なんか、見つけたんですか」
ふたりでロボットを観察する。

再び岩陰に隠れると、彰は腰をおろして言った。
「来栖川の…メイドロボット…じゃなさそうですね」
「あんな顔のメイド、誰が必要とするもんか」
藪を抜け、岩場に入り道なき道を進んできた彼らは、運良くロボットの死角に出ていた。
もし通路を歩いて正面から遭遇していたらとは…あまり考えたくない。

「それになんで、あの通路にだけ配置されてるんでしょうね」
「どういうことだい?」
耕一にはさっぱり解らない。
年下の少年に教えを請うように、あとを促す。

「それは-----」
「-----穴熊でもなければ、重要拠点には抜け道を用意する。
 頭のよい兎は、三つの抜け穴を用意するという。
 人間ならば、尚更だ」

何の気配もなく。
降って沸いたように、男が立っていた。
彰と耕一はキツネにでも化かされたかのように、呆然として動けなかった。
「な-----」

「勇気ある青年たちよ。
 …悪いが、尾行させてもらった」
「「!?」」
彰が怪我をしている以上、距離さえおけば二人を尾行することなど簡単だ。
しかし、こういう気配を身に纏える人物に尾行されたという事実は、恐怖に近い。
「何者…だ」
幾分気圧されながらも、耕一が集中力を高める。

それを抑えるかのように、渋みのある微笑を浮かべ男は言う。
「そう身構えるな。
 私は、君らのような同士をこそ、望んでいたのだ-----」
いくぶん悲壮な顔をして、腕に抱えた女性(?)をそっと降ろす。
それに合わせるように、荒涼とした岩場を一陣の旋風が吹き抜ける。

「坂神蝉丸。
 蝉丸と、呼んでくれ-----」

男は。
…月代の気絶により、久々にハードボイルド満喫な蝉丸であった。

 
鬱蒼とした森を抜けながら、少女はひとり、考えていた。
(あたし、何してるんだろうね?)
失った仲間のことを思うと、これ以上むやみに他人とツルむ気にはなれなかった。
だからと言って主催者側の連中が、ひとりでどうこうできるような、そんな相手ではないと
解っている。

(刀一本道連れに。
 仁侠映画じゃないんだから、いくらなんだって無理だってーの)
無理矢理気を楽にしようとした想像も、やはり不可能の三文字へと到達してしまう。

(仲間、ねえ…)
郁未。葉子さん。少年。
この三人がまず浮かぶ。
しかし、あれほど捜しても会えなかった相手を目的に、再び駆け回るのはどうだろう。

(他には…)
…いない。
誰が好き好んで闘争の場に身を置くだろう。
普通は怯えて、誰かを襲うか、または逆に襲われて、それで手一杯のはずだ。
主催者側の人間と戦う。
それは個人的な怨恨を抜きにして高度な視点で見れば、他の全員に対する奉仕と
言ってもいい。
知らない誰かさえも含めた全員を守るために、戦争屋と戦う。
そんなことに手を貸すような知り合いは、先の三人を除けば全て-----

-----いや、ひとり、いた。

『さっさと行きなさいよ』
『ふん。-----言われないでも、出て行くわよ』

『『次はきっと、絶対、勝つわよ!』』

…あまり気が進まない気もするが、いた。
あいつなら、きっと。
そう考えが纏まると、なんとなく気が軽くなる。
もともと考えるより行動するほうが好きな性質だ。

巳間晴香は、求める相棒と良く似ている。
本人達は、認めないのだが。

そして駆け出そうとした晴香の前に。
人影がよぎった。
慌てて晴香は見を隠す。
男が、ひとり。
最初のホールに、こんな男はいなかった。
最年長だと思われた、目付きの悪い男よりも年上だ。
(主催者側の…人間か…)

なにやら呟く声が聞こえる。
意味が通っているのだが、何か浮ついたような、そんな不安定な言葉を声の大小絡めて
吐き出していた。
怒っているのか、それとも何かに憑かれているのか。
汗とも涎ともつかぬ水滴をぼたぼたと流しながら、男は丘へと続く道を進んでいった。

(この先に…主催者側の施設でもあるのかしら?)
小首を傾げて晴香は考える。
仲間を集めるのが先か。
場所の見当をつけるのが先か。

(ま、あとでも…チャンスは一緒だしね…)
晴香はそう決めて、男の後を尾けることにした。

それが、求める人物への道でもあったのだが。


もしも空から眺めたなら。
彼らが大きな輪の上に居るように見えただろう。

大きな
大きな
輪を描いて。

運命の流れは、一転に集中しようとしていた。

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