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二択


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(…やっぱり、こうなるのですね)
 向けられるデザードイーグルの銃口を見つめながら、里村茜はため息をついた。
 その感情は絶望というよりも、現実の認識といったほうがいい。
 当たり前の話だった。この自分が、7人の命を踏みにじった自分が、慕ってくる後輩を手にかけ、やさしいあの少年を手にかけ、親友をにかけた自分が、許されるはずない。
 その罪を背負い、少しでもその償いができるように、そんな風にして自分が生きていることを喜んでくれる少年の傍ら生きていくことなんて、許されるはずがない。

(いえ、これこそ身に過ぎた果報かもしれませんね)

 本来ならば即座に頭を吹き飛ばされても文句は言えないのだ。
 ならば、早く連れて行ってほしい。これ以上ぐずぐずしていたら祐一たちが来てしまう。
 こんな身から出たさびに、祐一たちを巻き込むわけにはいかないのだ。
「わかりました」だから茜はそういった。「はやく連れて行ってください」
ゆっくりと手を頭の後ろで組む。
「…ほら、お母さんも往人さんも。危ないよ、こんなもの」
その声に呼応して観鈴が一歩、往人と晴子の前に出る。
「私観鈴、よろしく。あなたの名前、聞きたいな」
観鈴がそう笑いかけたのと、
「茜ぇぇぇぇ!!」
祐一の叫び声がこだまするのが、同時だった。
「なんやっ!?」
「仲間か!?」
一瞬、二人の注意が祐一の声のほうに向けられる。
その一瞬に茜は、
        その行動は、理屈というより、
先ほどしまいこんだコルトガバメントを引き抜くと、
        祐一たちが戦いに巻き込まれるなら、
その動作ともに観鈴の腕を引っ張り、
        有利な状況に持ち込むべきだ、という理屈というより、
その身を盾にして、
        相手の隙を見つけたならばそのように行動してしまう、
銃口を首に突きつけて、
        既に染み付いてしまった、
叫んだ。
        殺人者としての性なのかもしれない。
「動かないで、撃ちますよ!」
 祐一が、繭が、なつみが見たのはそんな光景だった。
何をしているんだろう。
なつみは思った。
何をしているんだろう、この女は。

『復讐とか何だか知らないけど、折角残った命を大切にしようって気があるの?』
あの人はそういった。
『居場所が無いなら、探せばいいじゃない』
日本刀を手にした、私たちの前で戦った、文句なしにかっこいいあの人はそういった。
あの人、巳間晴香さんには、何度礼を言っても足りないと思う。
だから、里村茜を許そうと思った。
憎しみが消えたわけじゃない。
わだかまりがなくなったわけでもない。
でも、あの人には敬意を払いたい。
『生きる権利なんて、誰にもあるのよ。あんたなりに、生き残りなさい。』
その言葉を大事にしたい。
だから、今は無理でも、この女を許そうと思った。
そばにいることで、ゆっくりと許していこうと思った。
そこを、私の居場所にしたいと思った。

なのに。
何をしているんだろう、この女は。
友人を殺しといて、その涙も乾かぬうちに…
女の子を盾にしているなんて…!
許せなかった。
思いを、決意を、踏みにじられた気がした。
だから、
「あなたはぁぁぁぁっ!!」
怒声を上げて、隣にいた祐一から濃硫酸銃をひったっくって、その銃口を茜のほうへ向ける。
だけど、
「っく…!?」
往人たちにしてみれば、それは、茜の援護をしているようにしか見えなくて。
反射的になつみのほうへ向けた往人のデザートイーグルが火を噴く。
バッァン、ビチャァ。
それは銃声、なつみの左腕がはじけとんだ音。
「て、てめぇは!?」
「な、なつみさん!?」
叫ぶ祐一、繭。
だが、なつみは倒れなかった。銃を手放さなかった。そうして引き金を引く。茜に向けて。
「キャァッ!!」
悲鳴をあげる観鈴。だが、硫酸は茜にも観鈴にもかからない。
狙いをつけるだけの余力がもうないのだ。なつみには。
だが、なつみは引き金をさらに二度三度引く。
「なにやってるんだよ!!なつみぃ!!」
そういってウォーターガンを取り返そうとする祐一を無視して。
たまらず茜は、観鈴を晴子のほうへ押し付けると背を向けて茂みの中へ駆け出した。
「またんかいこらぁ!!」
観鈴を抱きかかえる格好になりながら、それでも晴子は茂みの中に消えようとしていた茜の背に狙いをつける。
 だが、その引き金を引くよりも、祐一がなつみから奪い返した(なつみの握力などもうなくなっていた、引き金を引いたなんて奇跡だ)ウオーターガンで晴子を撃つ方がはやかった。
 その濃硫酸は服の上から晴子の二の腕にかかる。
 その肌からジュッと耳障りな音がたつ。
「グア…!!」
 たまらず悲鳴をあげる晴子。その手からシグザウェルがおちる。
 祐一はすばやく銃口を往人のほうへ向けた。
 往人も既にデザートイーグルを祐一のほうへ向けている。
「何もんなんだよ、あんたら…!!」
 茂みの中へ消えた茜を追う繭を尻目にみながら祐一は怒鳴りつける。
 その額には汗。即死させるのが難しいこのウオーターガンで拳銃と立ち向かうことができるだろうか?

 だが、動揺というなら往人のほうが深い。先ほどの一発が最後の弾だったのだから。
 晴子のシグザウエルは、観鈴が拾い上げていたが、
(あいつに、人が撃てるか?)
 撃てるとは思えなかったし、撃てると思いたくもなかった。
「晴子!大丈夫なのか!?」
 祐一から目を離さずに往人は問う。
「平気や。こんな…もん」
「ダメ…!すぐに水で洗い流さないと!!」
「チッ」
 往人は舌打ちした。ここまでか。
 だから、往人は強引に晴子を引き寄せ片腕で抱き寄せると、銃口を祐一に向けたまま、
 一度だけ、強く祐一をにらむと、
 観鈴とともに茂みの中へ消えた。
 繭が茜の跡を追ったのは、実はそれほど賢い選択ではなかった。
 残って祐一のサポートをすべきだったのかもしれない。
 だが、繭の中にもある種の疑念が渦巻いていた。
 それは、なつみの場合はもはや確信となったものであるが、すなわち

 まだ、里村茜は、殺人者ではないのか?
 
 そういうことだった。
 観鈴に銃口を突きつけている姿はそう思わせるに充分だった。
 そして、茜がまだ殺人者だというならば。
 最も多くの武器を所持している彼女を放置しておくことほど危険なことはないのだ。
 「待ちなさい、里村さん…!!」
 そうやって呼びかけながら、走る茜の背中に、ほとんど体当たりといっていい勢いで組み付いたのは、結局その疑念がさせたことだった。
 『キャアッ…!?』
 茜と繭は同時に悲鳴をあげる。
 全速力でそのように組み付けば、二人とも転倒するのは当然だった。
 そのまま惰性で、ごろごろと二人は組み合ったまま茂みの中を転がる。
 そして、急に視界が開けた。それだけじゃなくて、
「嘘…!」
「なッ…!?」
 下に地面がなかった。
 崖が、茂みのせいで隠されていたのだ。
 そのままだったら、二人とも組み合ったまま転落していただろう。
 下の地面にたたきつけられていただろう。
 だが、今まさに落下していく二人の腕が引っ張られた。
「祐一…」
「あんた、大丈夫なの!?」
「くッ…待ってろ…今引き上げてやる。」
 ほとんど飛びつくようにして祐一は右手で繭の腕を、左手で茜の腕を引っつかんでいた。
 腹ばいになって、肩より上を乗り出し、虚空にぶら下がる少女二人を必死に引き上げよ うとしている。
 だが、
「く…そ…」
 それは無理だ。とても無理だ。
 繭も茜も、小柄なほうではあるが、それでも二人の人間をこの態勢で引き上げることはできない。

 そう、二人の人間は。

 ズリッ、ズリッと、祐一の体が前に引きずられていく。
 ぱらぱらと落ちる小石。
 おもわず繭は下を見てしまう。
 高い。下に植物があるとはいえ、落ちたらおそらく、
 助からない。
「必ず…必ず…助けて…やる」
 食いしばった歯の間から悲痛なうめきがもれる。けれど、
 …三人はもはや悟っていた。
 このままでは、全員が転落するか、
 繭か茜、どちらかが死ぬしかないということに。

【晴子右腕を負傷】
【往人のデザートイーグル弾切れ】

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