永遠は閉ざされて
――それは酷く長い一瞬だった。
手を払う。
それは、茜に残された最後の力。
祐一の手は血で滑り――
その手は離れた。
途端に襲い掛かる、無重力感。
上に見えるのは。
手を放した祐一の、酷く、酷く悲壮な顔。
――そんな、哀しい顔をしないで下さい。
――私は、死んで悔やまれるべきではないですから――。
そう、言いたかった。
けれど、声は出なくて。
胸に穿たれた風穴は、確実に己の命を削り。
奪っていく。
底知れぬ闇へと――。
とうとう、祐一の顔も見えなくなった。
後ろには、深い、深い闇が広がっているのだろう。
――振り返る?
いや。
振り返ったところで、顔から落ちるだけ。
――けれど。
この焼け爛れた顔を。
彼の目に晒すよりはいいかもしれない。
いや――"彼ら"、か。
今。
数瞬前に。
最後の最後に――裏切ってしまった、彼。
そして――
もはや還れぬ、あの地で。
待たねばならなかった――あの人。
不意に。
遠くに見える、木が。
風に揺れて。
その向こうにある空を――覗かせた。
蒼い空は、何処までも深く。
一瞬だけ、ぽっかりと空いた空間に。
蒼く、蒼く広がっていて。
茜は、手を伸ばした――。
もし、この背中に翼があるのなら――
最期に、一つだけ、願いが叶うのなら――
私は。
あの空を越えて。
行きたい――
「永遠」に。
けれど。
再び風は吹いて。
空はその姿を覆い隠された。
それは。
道を閉ざされたようで。
――ふふ。
何となく、笑えた。
ごぐっ。
――随分と、鈍い音。
それが、彼女が聞いた、最後の音だった。
【043里村茜 死亡】
【残り28人】