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西へ、向かった。
どうしてと聞かれれば、なんとなくとしか言いようが無い。
ただ北への道は閉ざされていて、他に行くところがなかったから、
と言えばその通りかもしれない。

……お腹、空いたなぁ。

「……どうかした?」
「えっ!? う、ううん。なんでもないわ」

もの欲しそうな顔をしてたのかなぁ……。
思わず過剰な反応をしてしまった。
朝から、いや昨日のうちから心配していたことだから。
そう、食糧問題は我々の状況を切迫したものに追い込もうとしているのよ!

「そんなにお腹が空いたかい?」
「そんなこと当たり前じゃない! ……って、わぁ〜〜〜〜!?」

しまった、口に出していたようだ……。
くぅっ、ばれちゃったじゃないのよぉ……。

「早く言えばいいのに。僕の分を上げるよ」
「そんな……、悪いわよ」
「いいんだよ。どうせ僕は水だけでいいし」

クスッと、彼は笑った。

「そうだねぇ……、もう結構歩いたのかな?
 休憩し時かも知れないね」
「う〜〜、そうね……」
「丁度いい、あそこの教会で休もう」
「え、教会? どこどこ」

くるくると首を回す私。

「あそこだよ」

彼は苦笑して指を指した。

――教会。
白い小さな教会。
それが、そこにあった。

「わあ……」

綺麗なところだと思った。
もし、こんなところで結婚式が挙げられたらどんなに幸せだろう?
私はうっとりしてそれを眺めていた。

「……どうしたの?」
「うん……」

不思議そうに尋ねる彼。
私は茫洋とした返事しか返せない。

「…………まあ、いいか」

でも。
少しの間私の顔を覗き見て、
何かに満足したように、彼は納得した。

「……さあ、いこうか」


「え……」

始めは、困惑。
そして、だんだんと分かってくる。
ここで、なにがあったかが。

――白い教会は、血に汚されていた。

七色の輝きを灯すステンドグラスは、滴った紅を引き立てて。
噎せ返るような、鉄の匂いを振りまいて。
それなのに、そこはとても静かで――。

「誰か……ここにいたようだね」
彼は言った。

「そう……みたいね」
もしかしたら。
そう言う私の唇は、震えていたのかもしれない。

「……行こう。ここにいると、なんだか無性に悲しくなってくる」
「……うん」

そして、私たちはそこを出た。
誰かが、ここで殺しあっていたんだろうか。
……本当に、そうなんだろうか?

白い教会、白い鳩。
白いウェディングドレスに、白いブーケ。
白で満たされたそこは、幸せの満ちたところのはずなのに。
ここは……違う。
血の紅が染み付いたここは、
ただ痛みと、寂しさと、悲しみしか、語らない。

――二人は知らない。
ここで刻まれた悲しみを。
はかなく散っていった少女たちの思いを。
純粋な、願いを。
血塗られた結婚式。
例え穢れていても、成し遂げたかった願い。
二人は知らない。
そして、もう誰も知ることは無い――。


結局、私たちの休憩はおじゃんになった。


【郁未、少年:西へ移動中】

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