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七瀬。


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最悪の事態――
HMが、そして、気が狂った長瀬源三郎、が。

「くそっ! ここまでやったのにっ!」
身体を起こした七瀬は、その最悪の事態を、観た。
銀髪の青年が、ロボット――HMと対峙し、そして、腹から――血。苦しげな表情で呻く。
そして、今――長瀬源三郎が、七瀬彰に銃弾を放って。
幸いにも彼の意識はまだ絶たれていないようで、弾き飛ばされるも、
七瀬と殆ど同時に顔を上げて、ぎろりとした眼を見せた。
少し離れたところで、焦りの表情と共に、何やら怪しげな動きをしている耕一。
そして、耕一に向けられた、長瀬源三郎の――銃口。
状況が良く掴めなかったが――つまり、

「大ピンチ、って事ね」

右手には鉄パイプが、左手には拳銃が――あるにはある。
だが――あれらと戦うには、あまりにも、弱すぎる。
今立ち上がって、長瀬源三郎を止めに入れば、――きっと、自分は死ぬ。
HMに、きっと、殺されるだろう。
あのように屈強な青年でさえ、ああまでやられているのだ。乙女である自分が敵うはずがないではないか。
珍しく弱気になる。
それは、死への恐怖だったのだろうか?
今、一人でここから逃げ失せれば――自分だけは、助かるかも知れない。

馬鹿な。
――自分らしくない。

敵う敵わないの問題ではない!
折原も瑞佳も死んだ! それぞれが、大切なものを、誇りを守るために!
あたしが、ここで立たないでどうする!
あたしは七瀬だ!

「惜しかった――実に惜しかったです、しかし、残念ながらあなた方もこれで終わりです」
不思議なほど明るい微笑みを見せて、長瀬源三郎は――高らかに、声をあげた。
彰は歯軋りする。
何故、身体が動かない?
今、耕一がやられたら――中華キャノンがいかれたならば、きっと、終わりだ。
脱出、ひいては――生き残るための、最後の希望が、無くなるのだ。
管理者側を打倒する、など、格好いい事を云っておきながら、こんなところで。
眩暈。
血。あふれ出る血が目に入る。
防弾チョッキを着ているから、今流れている血は、腹からではない。
そもそも、腹から流れる血が、視界にはいるわけがない。
口から溢れている。
――内臓を、やられたのだろう。
逆流する。――気持ち悪い。

だが――彰は、霞む視界を睨みながら、
まだ立ち上がろうとする。
足に力が入らない。
流れた血は、既に致死量に至っているのかも知れぬ。
膝立ちで、彰は――もう、残弾も少ないだろう、サブマシンガンを、長瀬源三郎に向けた。

ぱららら、と、もうかなり聞き慣れた音がする。
だが、それも、弾切れだ。カラン、という、音がした。

――最後の攻撃は、一発も、当たらなかった。

だが――

ゆっくりと、長瀬源三郎はこちらを振り向いて嗤う。

「おっと……まだ、生きていましたか、七瀬彰」

充分だ。
耕一の、エネルギー充電の時間を稼げればいいのだから。
どうせ自分はもう半死人なわけだ。最後の犠牲は自分だけで済めばいい。
耕一があれを倒せば、初音も、冬弥達も、そして、皆、助かる筈だ。
ならば、もう終わる命だ、有効に使ってやるよ! 出来る事はこれくらいだから!
打算もあった。
一種狂人めいた眼をした源三郎が、今、本当に止めねばならぬ耕一よりも、
武器が無くなり、もうただのヒトに過ぎぬ自分を優先するのではないか――
彰は、そう確信していた。
「彰くんっ!」
青ざめた顔でこちらを見る耕一。
「耕一さん、絶対、絶対、初音ちゃんを、守れよっ!」
彰は――最後の力で、叫び声を上げた。

源三郎は、拳銃を、多分、自分の脳髄に向けた。
「長瀬の末裔として、なかなかの戦いを見せてくれたが――これで終いだよ彰くん」
初音の声は聞こえない。
何か、初音が喚いているようにも見えるが、彰の耳には届かない。
こんな、死の間際に至っても走馬燈など見えない。
ただ、世界がモノクロオムの――風景に染まって見えた。
その場面に至って――彰の身体に、僅かに力が戻ったように、思えた。遅すぎるけれど。
――やっと、初音の声が聞こえた。
「彰お兄ちゃぁんっ!」

そして、もう一つ

――雄叫びが、聞こえた。

「でぇぇぇぇぇい!
長瀬源三郎は――横から迫り来る自分、
――七瀬留美を見ても、殆ど動揺することなく、足下に弾丸を放つ。
ガァン、と大きな音を立て、自分の足下で土が弾けた。
怯ませるつもりだろうか? 舐めているのか?

まるで足を止めず走り近付いてきて、鉄パイプをかざした自分を見て――
漸く、源三郎の表情は、少しだけ青ざめた。
「鉄砲が怖くて乙女がやれるかあっ!」
力任せに鉄パイプを振り下ろす。
寸ででその攻撃をかわし、源三郎は軽く舌打ちをすると――また、嗤った。
「面白い娘さんだ。だが、その手に手に手に持った拳銃も銃も銃も使わないで私に勝てるとでも思ったら大間違いだ大間違いだ」
大間違いだ。
繰り返す。
――狂人。あまりにもきちがい染みている。
そして、銃口を向け、今度こそ七瀬の脳天にめがけてそれを放つ。
それが当たれば、きっと一瞬の苦しみと共に楽になれるのだろう。
だが、七瀬のそのカモシカのような脚は、七瀬にそんな甘えを許さない。

足が痛まないわけではない。その痛む足で出来うる限りの早さで、七瀬は走る。
「そんな簡単に殺されてたまるかあっ!」
吐き捨て、七瀬は――ある、意図を込めて、ポケットからナイフを取り出すと――それを、投げた。
「あははははははは、まるで見当違いの方向ですよですよですよ」
放物線を描き、それは地面に突き刺さる。
小さな期待と共に、七瀬はまた走り出し――慣れぬ拳銃を手に取り、
そして――引き金を引く。

だが、まるで見当違いの方向にしか弾は飛んでいかない。
「あはははははははは、拳銃を使うのは初めてですかぁ?」

源三郎は嗤いながら、自分は手慣れた風に、引き金を引いて、ピンポイントで狙ってくる。
殆ど偶然に近いような回避で、七瀬はその弾丸を回避し続ける。
時間は充分稼げている。
意図は分からないが、耕一が何かをやろうとしているのは、判る。
こちらを見遣りながら、やはり焦った様子で、
「留美ちゃんっ!」と歯がゆそうな声をあげる。
「気にしないでっ! 耕一さん、何でも良いから早く終わらせて!」
「判ってるっ!」
お喋りしている暇はありませんよっ!
云って、弾丸が今度は、自分の耳元すれすれを通り過ぎる。
腰が抜けてもおかしくないような出来事だが、それでも七瀬はまだ走り続ける。
だんだん拳銃の使い方も判ってきた。
それに、――今、背後で、立ち上がった。
期待はしたが、それでも、駄目かも、という予感はあった。

だが、――期待には応えてくれたようだ。

「あはははははははは、何を嗤っているんです七瀬留美ぃぃぃっ」

「――っ!?」
その時、だった。
すしゃり、と、何かが、背中を通ったような感触。
刃物が背中に入り、そして――血があふれ出るのを感じる。
「だ、誰だっ――」

立っていたのは、七瀬彰。先程までと変わらぬ満身創痍にも関わらず、その眼は、甦った。
手に持つのは、先に七瀬が投げたナイフ。そして、赤くなったそれは、源三郎の血。

「ちぃっ――!」
源三郎は振り向き、銃口を彰に向ける。
だが、引き金を引く前に、今度は七瀬留美が、背後から走り寄り鉄パイプを振るう!
「ぐはっ!」
源三郎は頭を強打する! だが、意識はまだ途切れない! 狂性が、源三郎を突き動かす!
「貴様ら――舐めやがっ――!」
だが、源三郎がその言葉を言い切る事は出来ない!
彰の左手の拳が、ガツッ! という、鈍い音と共に、その顔面にたたき込まれる!
捻れるほどに弾けた源三郎の顔。そして、そのまま彰は源三郎の身体を固定する。
「行け! 七瀬さんっ!」
「くぅっ――や、やめ」
動けなくなった源三郎、叫ぶ彰、そして、七瀬がその顔面に向けて、もう一度、拳を叩き込む!

ガシィィ!

身体全部を巻き込んで放たれたそのパンチは、悶絶するに充分な破壊力。彰をも巻き込んで、源三郎は弾けた。
源三郎は苦しそうに倒れるが、しかしなお、泥に顔を汚しながらも顔を起こそうとする。
――だが、七瀬はその脚、踵で、再びその顔面を泥に叩きつける!
ガツンッ、と云う、嫌な音を立て、今度こそ、狂性は、閉じられた。

「はぁ、はぁっ――」
――息を乱し、倒れそうになる彰に、肩を貸す者がいる。
「無理させてごめんなさい」
七瀬は、少し申し訳なさそうな顔で、しかし、少し満足げな顔で、云った。
「いえ。大丈夫、です。それより、早く、蝉丸さんのところに、援護を――」
「ええ、あっちも危ないわ、早くしないと――」
「彰くん、留美ちゃんっ! 蝉丸さんが危ない、もう少しだけ、もう少しだけ時間を稼いでくれっ!」
「判ってる!」「判ってるわ!」

――初めて、二人の七瀬は肩を並べ、戦った。普通の人間でありながら、これまで、
  強い、強い力で、生き残ってきた――二人が。


【七瀬彰 七瀬留美 長瀬源三郎を撃破。蝉丸援護へ。
 この戦いの間の蝉丸とHMの戦いの経過は、次の人にお任せします】

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