マツリの痕


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「ちんたらしてるウチに、全部終わっちまったってワケかい」
「……ふみゅ〜ん」

 教会に辿り着いた二人(と、動物たち)を歓迎するものは誰もいなかった。
 残るのは、てんてんと続いた血痕など、戦闘とおぼしき跡のみだった。
 しばし、途方に暮れる御堂と詠美。

「ち。ここでじっとしてても仕方ねぇ。気が進まんが、坂神の野郎と合流……」
「ねぇ、したぼく」
「あ?」
「あれって……お墓じゃない?」

 詠美の指差す方向。それは教会の隅にあった。見れば、明らかに地面を掘った後がある。
「……」
 無言で、その墓に近づく御堂。詠美は慌ててその腕を捕まえる。
「ちょ、そんな怖い顔してどうする気よ!?」
「誰が埋められたか調べる」
 御堂は淡々と応えながら、歩を進めていく。詠美は引き摺られる格好になりながらも御堂の後をついていく。
「やめなさいよ。あんた、そんなことすると死んだ人に失礼だって」
 御堂が、笑う。
「死人に失礼、か。死人を生み出す強化兵に対して意味の無い言葉だな」

「あそこに埋まっているのが、あの水瀬名雪と名乗った女なら誰かがあの女を殺したってことだ」
「そ、そりゃそうよ。自分で死んで、お墓に入る人なんていないんだから」
「わからねぇのか? 殺しておいて、墓に埋めてるんだぞ。あの女と関わりのある奴の仕業の可能性が高い」
「な、なんでよ?」
「知らない敵に襲われたら、お前、そいつを葬ってやるか?」
 詠美はしばし考えて、ぶんぶんと首を振った。
「ああやって弔うってのは、その死んだ奴に敬意を払ってるんだろ。だとしたら、知り合いか、家族か、恋人か」
 御堂は詠美の方へ向き直ると、吐き出すように呟いた。

「……つまりだ。相沢祐一が水瀬名雪を殺してるかもしれねぇってことだ」

「相沢祐一って、ゆういちって人の本名? なんでなんで、そんなのわかるのよ?」
「馬鹿か。さっき放送が流れたとき、生存者の一番最初に呼ばれただろうが」
「……ってことは、まだ生きてるってことだね」

 果たして、その墓の中から見つかったのは二人の女性。
 そして、一人は御堂の知る顔であった。

「……どうだった?」
 掘り出した土を元に戻してる御堂に、詠美は近づいて声をかける。
「水瀬名雪が、いた」
「そう」
 少し落ち込んだ様子で、詠美は言った。
「あ? どうした?」
「ん。ちょっと。あの人、祐一って人にホントに殺されたのかなぁ、って」
 ぽんぽん、と土を盛り付け、御堂は立ち上がる。
「さぁな。ひょっとしたら、あの女が死んだ後に相沢祐一がここにやってきて埋葬したのかもしれねぇがな」
「そ、そうだよねっ!」
「なんだ? お前、ちょっと変だぞ?」
「変とはなによ! したぼくのくせにいっ」
 ふん、と御堂は続ける。
「いいか、もう一度言っておく。この島は狂ってる。その気になれば、親だろうが子供だろうが殺す奴だって出てくる」
 詠美は何か反論しようとして、御堂の言葉に遮られる。
「甘い考えは捨てろ。てめぇみたいなガキが殺し合いに慣れてるとは思わねぇが、
必要なときは誰でも殺すぐらいの覚悟が無ければ――死ぬぞ」
「ふみゅ〜……」
 目に見える程に落ち込む詠美。それを見て、ち、と舌打ちをする御堂。
「あー、なんだ。だが、お前はそうならないように頑張ってるんだろうが? こんなことで落ち込んでどうする?」
「ふみゅ……」

 しかし、である。御堂が墓を暴いたのは、水瀬秋子が眠っているかどうかを確認するためだけではなかった。
 先程の放送で死亡者に名を連ねていた少女。――月宮あゆ。
 その少女が、ひょっとしたら眠っているかもしれない、その確認のためでもあったのである。

 あのガキみたく、発信機を吐き出して「死んだ」ってんなら良いんだがよ……。もし、本当に死んでいたら。
 瞬間。御堂から殺気が膨れ上がり……そしてそれはすぐに収まる。
 冗談じゃねぇ。なんで、俺がそんなことに激怒しないといけない? あいつが死んだって、俺には何ら影響はない。

「ねぇ、したぼく?」
「……あ、なんだ?」
「行こうよ。こんなくだらないゲームのシナリオなんか破って捨ててやるんだ」
「……ふん。大した案も無いくせに、目標だけは一人前ってか」
「うるさいわね。あんたも協力しなさい! 大事な人を守りたいんでしょっ!?」
「ああ? 何言ってやがる?」
 御堂は胡散臭そうな目を詠美に向ける。動揺はなかった……筈だ。
「この詠美ちゃんさまを守らせてあげる、って言ってるのよ。さぁ、存分に守って、守り抜いていいわよ」
「……おめぇ、やっぱ馬鹿だろ?」
 御堂、ため息ひとつ。

「で、結局あの墓にはそれを置いていかなかったのか?」
「あ、うん。……これって、やっぱ祐一って人に渡すほうが良いと思ったから」
「相沢祐一があの女を殺していたとしてもか?」
「……うん」
 詠美が、頷いた。――好きな人の、側にいたいという気持ちは、誰だって同じだと思うから。
 あたしも、和樹のところに何か置いていってあげたら良かったかな。――帰るときが来たら、もう一度だけ行くからね。……和樹。
 そんなことを思いながら学生手帳をしまうと、詠美は御堂に尋ねた。
「あ、そうそう。動物たちは?」
「辺りを偵察させてる」
「あんた、そんなことも出来るの? ホント、動物園の園長みたい」
 そのとき、林の影から毛糸玉が飛び出してきた。
「ぴこぴこ〜っ!」
「っと。噂をすれば、だな。……行くぞ」
「うんっ!」

【大場詠美(011) 御堂(089) 教会から、ポテトたちが見つけた何かへと移動開始】

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