仰げば尊し


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「……」
モニター越しに…青白いい濁流に飲まれていく。
「……」
何も言わずに、ただそれを見ていた。

それが終わったとき、モニターに映るのは、中華キャノンを構えた耕一の姿。
断続的に砂嵐がモニターを覆い尽くす。
プルルル…源五郎の特殊携帯がけたたましく鳴り響いた。
ガチャッ……
「機能、完全破損…戦闘…不能…デス…」
「そうか…分かった」
短く、そう答える。
「もういい。あとで回収してやるからそのまま寝ているといい」
モニターの砂嵐が、増す。
元をただせば、源五郎の失策だった。
近距離戦闘のHM-12、遠距離戦闘のHM-13。
その強さは、2体がそろって無限の力を発揮する。
御堂を追わせ、HM-13が破壊された時から、負けは必然だったのかもしれない。
「誰もお前を責めはせん、もう、休め」
「ソノ命令ハ、聞ケマセン……」
「それ以上動くと…二度と復元できんぞ」
「ソレガ…戦闘型トシテ生マレテキタ私ノ…生キル目的デスカラ」
「………」

モニターが、進む。
一歩、二歩と。
耕一に向かって。
「分かった」
HM-12のメイン頭脳に残されたメモリー。
姉である、マルチの残した遠い記憶。
源五郎が残しておいたその本能が、HMにそうさせたのかもしれない。
「ロボットに心は必要か…」
いつかの、青年との会話を思い出す。
「俺は、必要だと思っているよ」
モニターを見ながら、誰へともなくそう言った。
モニターを断続的に包む、その砂嵐の頻度が多くなっていって…

あと、耕一まで、五歩…四歩…三歩…

そこで、モニターが完全に途絶えた。

ツ―――――――――
携帯の向こうから響く無機質な音。
そして…
プルルルルッ…
再び、別の携帯が鳴り響く音。
ガチャッ…
「はい…」
「源…五郎か……俺だ…源三郎だ…助けて…くれ…」
「源三郎さん…あなた、自分で勝手に飛び出していったんじゃないですか?」
「そ、それはそうだが…頼む…助けてくれ源五郎っ…!!」
「と、言われましてもねぇ…」
「も、もう戦えねぇよぉ…鼻も折れちまったし…」
「源三郎さん、あなたも長瀬なら、自分で広げた風呂敷ぐらいは自分でたたんでいただけますか?」
「今の戦闘で腕の骨折れましたっ!さらに背中を刺されました…もう再起不能ですっ、動けませんっ」
悲痛な叫び。
「見てたんだろう?ええっ!?源五郎っ!!」
「入り口はすぐそこでしょう?それだけ喋れる元気があるなら大丈夫でしょう…
 勝手に入ってきてください」
「ちょっ…げんご――」
プチッ…
「さて…と」
再びモニターを見つめる。既にそれは砂嵐が映るだけでしかなかった。

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