夢現
ここは、夢の中…なんだな。
そんな風にも思いながら。
ゆらゆら…ゆらゆら…揺れる俺の体。
ただ、闇の中で漂っていた。
遠くで、北川と、名も知らぬ外人女の声が聞こえる。
多分、そこが現実だ。
すまん、北川、もう少しだけ寝かせてもらうぜ。
…そういや俺って、ここで何してたんだっけ?
確か…悲しいことがあった気がするな…
どんなことだっけ?
頭が痛い…思い出せない。
この頭の、心の痛みは夢か現か。
どこかにピクニックでも来てるんだっけ?
ああ、そうだよな…それなら辻褄が合う。
…ってことは北川と二人でか?…イヤすぎだよそれ…
しかも北川は知らないバイリンガルまでナンパして…
くそ、香里に言いつけてやろうか…
ってゆーか北川と二人でこんなところにピクニックに来ることがそもそもおかしい。
いや、北川には悪いが男おんりぃで山にピクニックなどと…言語道断だ。
…そうだよなぁ……たぶん名雪や香里も一緒に来てると考える方が妥当だ。
北川のことだ。
「おい、香里、相沢や水瀬達と一緒に旅行に行くんだがお前も一緒にどうだ?」
なんて切り出すに違いない。かと言って香里が素直に承諾するとは思えないけどな。
だが、栞をうまく言いくるめればきっと香里も首を縦に振るに違いない。
その役目は…やっぱり俺か?
それに…そうだとしたら舞や佐祐理さんも誘ってそうだよな、俺。
あゆ、真琴あたりは何も言わずとも
「私も行く!置いていったら殺すからね祐一!」
「うぐぅ、ボクも行くよ!」
とか言ってるよな、絶対…
北川はこういう企画を組ませたら、その行動力は天下一品だ。
穴掘り以外にも得意なことはあったんだな。
うむ、さすがは俺の親友だ。
でも、本当にそうか?…なんかすごく悲しいことがあった気がするけど…駄目だ、思いだせん。
…まあ、いいか。あとで北川から聞けばいいか。……寝よ。
――俺の心を包み込む、大いなる悲しみで胸がつぶれてしまわないように。
「ジュンーー、重くないデスか!?」
「頑張るベシ、俺!」
「というヨリユーイチと一緒に荷物を運ぶと言うのは無茶ではナイですカ?」
「相沢が起きたら運ばせるから大丈夫だーー!ハアハア…」
さすがに、ギャグで返す気にはなれない。
「ハア…ハア…」
とりあえず、崖から離れて数十分。
「まあ、こいつにもいろいろあったんだろうな」
背に祐一を、手に大量の武器を持って、北川は歩く。
自分達の元々の荷物と、祐一の周りに散乱していた荷物とを。
北川が持ちきれない軽い小物は、すべてレミィが抱えている。
無理に持つ必要はなかったのだが、殺傷力のある武器を放置するのは危険だ…と考えてのことだ。
一部記憶を失ってしまうほど混乱した祐一と、そのそばに横たわっていた女性の仏さん。
あの場所にはあまり留まっていたくはなかった。
しばらく待ってはみたが、祐一の目が覚める雰囲気はない。
とりあえずというか、しかたなく腰を落ち着けられるような場所を探して移動中だった。
(着々と、進んでいるんだな…クソ食らえなゲームが…)
北川にこみ上げる嘔吐感――先のひどい有様だった女性の仏さんもそうだが――
一番、許せないのはやはり、ゲームの主催者。
(こんな俺にも吐き気のする【悪】は分かる。
【悪】ってのは自分自身の為に弱者を巻き込む奴のことだ。
まして女の子まで…奴等がやったのは…それだ)
別に北川とて正義感を振りかざして行動していたわけではない。
ただ、自分の置かれた状況でよかれ…と思っていることをやっているだけだ。
それでも、このゲームを正当化して許してやろう…などと言う気は毛頭ない。
(あのCD…どんな意味が隠されているんだろうな…
実はただの変哲もないゴミCDでしたー……だったら笑うぜ、俺は)
それこそ道化師だよな…
(やっぱ情報が欲しいや…なんとかしないと…な)
「ハアハア…ジュン?どーしたの?」
「ドキッ…!…いや、なんでもないって」
「……?そーデスか?」
今の一瞬、息を荒げるレミィを少し色っぽいな…などと思ってしまった。
(神様、母さん、こんな潤めをお許しください……)
【相沢祐一 北川潤 宮内レミィ 崖下より移動】