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The Long Goodbye


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 戦闘ロボを何とか撃破した僕たち――いや、今回の僕はほとんどがただ、
見守るばかりで大したことは何一つしていなかったが……――は、
気絶した蝉丸さんの意識を呼び戻し、簡単な自己紹介を済ませた。
 そして、このことで頭を悩ませていた。

『このまま通路の奥に進むべきか、否か』

 管理者側の態勢が整う前に、このまま侵入したいというのが全員の気持ちだった。
 けれども無傷か傷が少ないのは七瀬さん――いや、留美さんか――と巳間晴香さん、
そして初音ちゃんの3人だけだった。しかも初音ちゃんに戦闘は期待できない。
 というか、僕はさせたくなかったし、耕一さんも同意見だ。
 それ以外の者も皆、何かしら傷を負っていた。
 耕一さんも僕にあんなことを言っておきながら、実は随分と体調に不備をきたして
いたし、蝉丸さんの傷も思ったより深かった。本人の談では塞いでいれば数時間で
治ると言うことらしいけど。僕も、今回防弾チョッキ上から受けた弾丸だけとは言え、
累積した疲労などが抜けきらない。
 ただ、仮面の女の子は蝉丸さんがもう一度眠らせていた。詳しくは話してくれなかった
けど、仮面が何か良くない働きをしていて、起きていると本人の負担になるのだという。
 とにかく、このまま先に進むのには、どう見たって支障がありそうだった。
 とりあえずこの奇妙な共闘団体に必要なのは、一度退いて態勢を整えることだ
ということになった。
「あのね、市街地の方にね、マナさんて言う、女医さんがいるんだよ」
 という初音ちゃんの言葉により、一行は市街地を目指すことになった。
 道中、それぞれの現状確認などが行われた。

 留美さんが教えてくれた、高槻が死に際に言い残したという言葉。
 高槻は『この島の地下ドックに潜水艦がある』と教えてくれたのだという。
 しかも、あの下衆野郎の言葉を、留美さんはなぜか信じたいのだと言う。
 僕には理解できなかったけど、蝉丸さんが地下から響く音を聞いていて、
もしかしたらそれが地下ドックなのかもしれないと言っていた。その施設には
一人の少年が向かっているらしいことも、蝉丸さんの口から語られた。
 蝉丸さんの言葉が高槻の言葉の真実味を増しているけど、ならば何故、
あの高槻がそんな事実を言い残すのか……。僕には本当に分からなかった。
 それから蝉丸さんの持っていたパソコン。これには何か情報が入っているかも
しれないけれど、二人とも使い方が分からなくて満足にいじっていないらしい。
 休息をとるならば是非中を見てみたい。
 しかし、何よりもあれだけ強力なものに守られていた、例の施設。
 中には脱出の鍵になるようなものもあるのかも知れない。

 様々な意見が飛び出し、僕も何度か意見を求められた。
 その度に僕は、当たり障りのない返事を返すだけだった。
 怪我と疲労で頭が回りにくくなっているのも確かだったけど、自分にはその
原因がはっきりと分かっていた。
 状況確認の最初に行われた、生存者と死者、やる気になっているかも知れない
人間を特定したときのことだ。
 直後は皆、それぞれの抱える想いで無口になっていたが、すぐに次の話題へと
進行を見せた。
 しかし僕はまだ、それを引っ張っていたのだった。

 僕は、集団の中一歩離れて道を歩いていた。
 初音ちゃんにもしばらく放って於いて欲しいと言った。
 それで初音ちゃんは今、耕一さんと歩いている。

 何回か放送を聞き逃していた僕にとっては、とても重要なことだった。
 初音ちゃんのお姉さん達が生きていると言うことは、とても嬉しいニュースだった。
 だけど、僕が気にしていたのはそれではなくて。
――冬弥と、由綺が死んでいたなんてな……――
 僕が一番の感慨を覚えたのはやはり親友である二人の死亡確認だった。
 しかも二人の命は、12時間以上も前に失われていたのだ。
 生きているみんなのために頑張った、爆弾の起爆装置のあった施設。
 死と隣り合わせの戦闘の中、思い浮かべたのは初音ちゃんと、冬弥と、由綺の
ことだった。
 みんなが生き抜くための礎になれれば、そう思っていた部分もあったのに、あの時
二人はもう亡くなっていたのだった。
 あれで、万が一、初音ちゃんもこの世の人でなかったなら、そして僕が死んで
しまっていたなら、トンだピエロが、一体できあがるところだった。
 自嘲の笑みがうっすらと口元に浮かぶ。
 二人の死が哀しいからって、そんな考え方はいけないじゃないか、彰。
 今、ここにいるみんなの役にも立つことをやったし、祐介達だって生きてる。
 そうかもしれないな。ああ、あの二人もこの仲間に呼べれば良かったけれど、
あれから時間も経った。場所を移してるかもしれない。
 しかし、あの冬弥達がが死んでしまったなんて……。
 二人は最後まで愛し合っていただろうか。
 二人は苦しまずに死ねただろうか。
 二人はあの世で仲良く暮らすのだろうか。先に逝った、美咲さん達と一緒に。
 二人は……。



僕は、過去の良き日々の再現は望めないと思いながらも、冬弥達とこの辛い過去
(今はまだ現在だけど)を共有しながら、これから先を何とかやっていくつもりだった
ことに今更ながら気付かされた。
 その望みはすっかり失われてしまったのだ。
 冬弥達の死によって、このゲームに連れてこられた僕の知り合いは、全員が永久に
失われたってわけだった。
 かつての自分の、日常を構成していた人、ひと、ヒト。
 全員がもう、この世にいないなんて……。
 仮に叔父と生きて会うことがあったとしても、二人の関係はもう、修復出来そうに
なかった。僕や祐介君に同情し、このゲームを止めて欲しいと願ったかもしれない叔父。
 でも、みんな死んでしまったのだから。
 あの日々は帰ってこないのだから。

 けれども、僕はここで絶望するわけにはいかなかった。
 祐介君に、初音ちゃんに話した自分の言葉の、その責任はちゃんととらなければ
ならないから。
『失われた日常にすがり嘆くよりも、これからの日常を自分たちの手で作り上げて
いくんだ。自分たちがそれだと思えば、それこそが 日常なんだから』
 とは、ある意味都合のいいことを吹き込んだかも知れない。
 でも、間違ったことは言ってないはずだった。
 それにあれは、彼らに言うのと同時に自分に言い聞かせた言葉でもあったのだから。
 仮にこの島を生きて出られたときには、そんな風に考えて生きていこうと……。


 美咲さん……。
 由綺、冬弥、はるか。
 そして英二さん、理奈さん……。
 僕はあなた達のことを引きずらないで生きていこうと思う。
 しかし、生涯忘れることもしない。


 その為にもまず、このくそったれの島から脱出しなければならないし、
それも今や終盤にさしかかっていると思う。
 島からの脱出を為すために、仲間が集まりつつある。
 集団で行動する以上、僕の行動は自分だけの責任では済まなくなってきているんだ。
 だから……。

 だから、彼ら、彼女らとの共通の目的を果たすまで、ほんの少しの間だけ
僕はあなた達を忘れることにする。

 目的に向かって、僕の頭脳が最良の判断を下せるように。
 ……その深い悲しみで判断を誤らぬように。

『ごめんね、美咲さん……』

 さよならは言わない。
 本当のお別れはもう遠の昔に済ませてしまっている。
 それに、これは長い別れではない。
 僕が自分の役割さえ果たすことが出来れば、その後にはまた、みんなを思い出すだろう。
 過去の良き日々に、思いを寄せながら……。
                          『残り ○○人』


──『さようならを言うのは、わずかのあいだ死ぬことだ』
   そんな言葉がある。
   しかしだ。ならば、死者に送る別れの言葉はいかなる意味を持つのだろうか。
   単純に永遠のお別れであるというように考えるのだろうか?
   そんな疑問をかつての彰は持っていた。
   しかし、実際に彰が触れた死とは、『永遠の別れ』であり、また、
   『別れではないもの』であった……──

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