昼日。


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最初に声を発したのは、七瀬の方だった。
膝立ちで見上げる形で、そこに屹然と立つ晴香を見て。
「――久し振り」
少しだけ皮肉を込めて。
「ええ」
晴香も負けてはいない。
腕を組んで、少し不機嫌そうな顔で。
「まだ生き残ってるとは思わなかったわ」
「減らず口を叩くわね、あんたも」
「――あんたに殴られた頬、まだ痛いのよ」
「へえ? あたしはこれでも手加減したつもりだったけど? あたしはもう全然痛くないわっ」
乙女よ、あたし。七瀬は云う。
「あんたの何処が乙女なのよっ!」
「どこからどう見ても乙女じゃないっ!」
七瀬は少し肩を怒らせて、はぁ、と呟く。全然判ってないわ、あんたっ!

少しの間をおいて――
「――冗談よ。互いに生き残っていて、良かった」
晴香は、そう云って笑った。
「――うん。あんたの顔なんて見たくもなかったけど」
七瀬も、笑った。
「それでも、会えて嬉しかったよ」
晴香も頷く。

別れた時に、二人の横には、大切な友達が、それぞれいた。
そして、今はいない。
けれど、二人は――その事を、詮索するつもりはなかった。

そんな言葉は、今は要らないと思ったから。

「(´д`)せ、蝉丸〜」
――これは悲しげな表情なのか?
お面をつけたままの――女の子? が、連れの青年――蝉丸と云ったか――の横でおろおろしながら、
悔しげな声を漏らすのを聞きながら――柏木初音も、小さな溜息を吐いた。
「(´д`)どうしよう、どうしよう、蝉丸ぅ〜」
「――くぁっ」
青年は、腹から多量の血を流しながら、呻き声をあげている。
ナイフで刺された傷は、思った以上に深い。
「(TдT)蝉丸、死ぬな、死ぬなぁ〜」
彼女は、涙を流しながら――って、あれ? お面の形が変わってる? 何で?
と、ともかく、彼の横で狼狽える。
初音は自分と同じくらいの年代の少女を、なんとか宥めようと思い、
「大丈夫だよ、大丈夫! わたし、街からお薬一応持ってきてるし、包帯も持ってきたんだ」
と、鞄の中から、タオルと包帯、傷薬といった、応急用の医療セットを取り出すと、
その真っ白なタオルで、あふれ出る血を拭おうとする――
「ち、近付くな!」
突然、その青年が大声を上げる。
思わず初音は飛び退いて、すぐに疑問の言葉を投げる。
「ど、どうして?」
「と、ともかく――その布を貸してくれ、自分でやれる」
青年は、――心の底から焦ったような顔で、そう呟いた。

血を拭いている内に――意外にも早く血は止まった。
「あ、包帯くらいは巻きます」
と、今度こそ初音は包帯を手に取る。
「(TдT)ありがとぅ〜、あなたすごくいい人〜」
「すまない、少女」
「ううん」
初音は微笑みながら、ガーゼを当て、包帯を巻き付け――

「よし、これで終わり!」
「(TдT)う、うわああああん、ありがとう〜、ありがとう〜」
泣きわめく――お面? を見ながら、初音はくすり、と笑った。
だが、笑ってばかりもいられない。彰も、七瀬も、皆傷ついている。
自分は戦えなかった、だが、こういう役は、自分の仕事だと思うから。

「(TдT)わたしよりずっと小さい女の子なのにー、わたしよりずっとしっかりしてるー」
「本当だな、すまない、幼い少女」
……初音は、ほんの少しだけ、ムカっとした。
「(TдT)どうしたの?」
どうもしませんっ!

そこへ、耕一の肩を借りて歩いてくる彰と、二人の誇り高い少女が、焼け野が原から現れた。
「初音ちゃん、大丈夫だった?」
――初音は笑って、頷いた。
自分はとても弱くて。
それでも、空はあまりに美しく。

すべては美しく。
それはとても、晴れた日で。

そして――この戦いを生き残った、七人の戦士達は――相談の末、街に戻る事にした。
これからどうなるかなど判らない。
けれど、いずれにせよ、その物語は――強い人間たちの物語。


【七人が街へ向かう直前の、補完として。……長瀬源三郎をどうしたかは、やはり次の人に……】

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