愛の消毒大作戦
世界がぐらりと歪んだ。
足が、パタリと止まった。
視界からは、相沢祐一の姿が消えていた。
目の前には、黄色い髪の、女の子。
心配そうに、俺のほうを覗き込んでいた。
「ダイジョウブ?」
彼女、宮内レミィはそう言ってるような気がした。
「あぁ、俺は大丈夫だ」
なんて強がって答えようと思ったけれど……ダメだ。
息が、苦しい。
手が痛い。
腕は、真っ赤、だ。
握っていた、マグナムが、地面に落ちた。
どさり、と音がした。
大丈夫じゃないな、俺。
心の中でそう呟いた瞬間、北川潤の意識は落ちた――。
目がさめると、柔らかいものの上に、俺ははいた。
「ジュン!」
レミィの顔が目の前いっぱいにあった。
「おわっ!」
少し驚いた。
「ジュンが目を覚ました! ワタシとってもウレシイ! ジュン! もう起きないかとおもったよー!」
どうやら、俺はレミィの膝枕で眠っていたらしい。
流石にこのままだと、恥ずかしいので立ちあがろうとした。
「ジュン、ダメだよ! もうちょっと寝ていなきゃ!」
眉をつりあげ、レミィは言った。
とりあえず、今は言うコトを聞いていたほうがよさそうだ。
というか、ホントは動けなかった。
ケガをしていた右腕を見た。
腕には葉っぱが茎でまきつけられていた。
レミィがやってくれたんだろう。
「レミィ、これありがとな」
腕を指差して、北川は言った。
「エヘヘ……これが限界だった」
レミィは、少し照れて、笑った。
「十分だ。レミィがやってくれたんだからな」
「一応、化膿しちゃダメだから、消毒しといたヨ……」
レミィは顔を赤くして、言った。
と、消毒?
ここにはオキシドールもヨードチンキも、赤チンもない。
ってことは……。
頭の中で考えると同時に、北川の顔も赤くなった。
「それじゃぁ、ちょっと水くんでくるヨ!」
そう言ってレミィがさっと立ちあがった。
ゴスッ
頭が地面に落ちた。
物凄く、痛かった。
腰から上だけ、上体を起こして、俺はレミィが帰ってくるのを待つことにした。