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Re-Birth


[Return Index]

「や、やっと、着いたぁ」
外傷よりも疲労が濃い耕一は息も絶え絶えに言った。よくここまで歩いてこれたのかが不思議なくらいだ。
「っていうか、あんたが勝手に抜け出さなければこんなにボロボロにならなかったでしょうが」
置いてきぼりにされた留美が、すかさず突っ込む。
「いや、男にはやらなきゃいけないことがあるんだ。たとえ苦難の道でもな」
「なにを馬鹿なことを」
留美はそう言って、耕一と彰を見やる。
(男なんて、みんな馬鹿で勝手だ。でも……)

殺人ロボットと源三郎との戦いで消耗してしまった一行は基地を目の前に戦略的撤退を余儀なくされ、葉子とマナが待つ市街地へと戻った。
彼らを出迎えたマナはさらに大所帯になったことに驚くと共に、誰一人欠けることなく戻ってきたことに安堵した。
だが、無事である、という言葉からは程遠い。
特に、
「うわ、この人、まだ生きてるの?」
彰の容態は特にひどかった。
根拠地にしていた町にたどり着いたとき、緊張の糸が切れたのか、彰は倒れた。
「お兄ちゃん! 彰お兄ちゃん!!」
あわててすがりついた初音の肩を蝉丸がつかむ。
「動かさない方がいい、傷に障る」
ビクッと震えるように初音は彰から手を離す。
「彼をとりあえずベッドに寝かせたい。それで傷の具合を見たいので服を脱がせる。あと、ハサミを貸してくれないか?」
「……こっち。救急箱もその部屋よ」
蝉丸の言葉にマナは奥の部屋を指し示す。
「うむ、すまない」
脱がせる、という言葉に思わず顔を赤らめるマナを後目に、蝉丸は彰を抱えて運んでいった。
「手伝いがいる。申し訳ないが何人か来てほしい」
体力を消耗しきってさっそく寝込んだ耕一と葉子がこの家で休んでいると知らされた晴香以外はその後についていった。

蝉丸は血が付着をし無理に剥がすことができないところは布の周りをハサミで切りとり、
そして一枚ずつ服を脱がしていった。
彰は誇張ではなく満身創痍であった。
(これだけの傷を受けながら、よくも……)
改めてその体を確認して蝉丸は内心舌を巻いた。
右太股に銃創があるだけではなく甲も半分以上無くなっている。頭に巻いた包帯は赤くなり、腹には大きな青あざが二つあった。
その他、小さな傷やヤケドは数える気にもなれなかった。
なにより、血が付いて茶色く変色した右足と既に用をなしていない後頭部の包帯がかなりの血を失い消耗していることを物語る。
(彰お兄ちゃんが大変なことになっている。なのに、私は何もできない)
初音は痛々しい彰を見守りながら、自分の無力さを歯がみしていた。
「すまないが体を拭くのに湯か、無ければきれいな水が欲しい」
「それじゃあ、私が!」
蝉丸の言葉にはじかれたように、初音は台所に走っていった。自分も怪我をしているにもかかわらず。

しばらくして、初音はやかんいっぱいにお湯を入れて部屋に戻ってきた。
「お湯、持ってきました」
「すまない、そこに頼む」
蝉丸は先ほどマナが探してきた洗面器を指し示した。初音はそれにお湯を注ぐ。
「これぐらいの熱さでいいですか?」
洗面器にうっすらと湯気がのぼる。蝉丸は指を少し入れてちょうどいい温度なことを確認し、うなずいた。
お湯を注いでいる間、改めて傷の酷さを見て、初音は胸が締め付けられる思いがした。
こんなになるまで戦っていたのか、そう思うと目の辺りにこみ上げる物が来た。
(お兄ちゃん……)
初音はまばたきをして、それを抑えようとした。だが、
カンカラカン
「えっ?」
初音は、ふと我に返る。
音がした方を見ると、手に持っていたはずのやかんが床に転がっていた。
「ご、ごめんなさい……」
何回も頭を下げる初音に蝉丸は言った。
「疲れているようだな、早く休むがいい」
「……」
そして、蝉丸は留美と月代に添え木になりそうな物を探してくるようにと伝えた。

(私は何もできない)
真っ暗な部屋に初音は膝を抱えて座っていた。
(彰お兄ちゃんを助けることも。ううん、もしかしたら足を引っ張っているだけなのかもしれない)
誰もいない部屋、一人でいると気が滅入ってくる。
(お兄ちゃんは私を守ってくれた。お兄ちゃんは私を励ましてくれた。お兄ちゃんは私に希望をくれた、なのに、なのに……)
初音は小さい体をさらに縮ませる。
(私にできること、私にできること、私にできること……)
焦燥感と自己嫌悪で初音の心が満たされたとき、どこからか声が聞こえた。
(あ……よ)
初音は辺りを見回すが誰も見つけることができない。
(ある……よ)
「だ、誰?」
(あるよ……リネ……ト)

彰の手当は終わり、その部屋には誰もいなかった。
初音は静かにドアを開けると音も立てずに中に入っていく。遮光され、暗い部屋だったが不自由なく、彰の方へ近づく。
彰の体の半分以上を新しい包帯を巻かれていた。蝉丸の適切な応急手当は結果だが、失血は補いようがなく、不規則な呼吸が未だ彼が死線をさまよっていることを表していた。
(お兄ちゃん……)
初音は苦しげな彰の寝顔を見て、
(くるしいよね、いたいよね、おにいちゃん……)
枕元にあった救急箱からハサミを取り出し、
(でも、もうだいじょうぶだよ……)
自分の腕に突き刺した。
そして、滴る血が、
彰の口の中に入っていった。


【七瀬彰(068)鬼の血を摂取】

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