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捧げるもの


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乾ききった礫沙漠のように荒涼とした丘の上で。
揺らぐことなく林立する大岩の下で。
あたしたちは移動の準備をしていた。

「それじゃ、行こうか」
びゅうびゅう、と騒ぎ立てながら隙間を抜けて行く風音にのせて、誰かが
そう言うのを、あたしはぼんやり聞いていた。

「…こいつ、どうするの?」
長瀬源三郎とかいうオヤジが岩陰で倒れている。
死んではいないのだろうが、話に聞く痙攣すら治まり、激しかった呼吸音も既にない。
隣でささやかに咲く野草が、いかにも不似合いだった。

「なんなら…あたしがやっても、いいよ」
自らの吐瀉物に顔を埋めて動かなくなった男の傍らに立ち、刀を携えて尋ねる。

「放っておいても、いいんじゃないかな…。
 いろいろ聞きたかったんだけど、その様子じゃ…無理だと思うし」
彰とか言う少年が答える。
傍らに小さな女の子を侍らせて、それでようやく立っている満身創痍の彼に
言われると、あえて殺すのも気がひける。

(でも、甘いね-----)
あたしは…目的のために、殺せる。
尋問…いや、拷問みたいな汚れ仕事だって、やれる。
自分の鋭利な決意を、世間の倫理に鈍らせるようなことはしない。
(名もなき兵士達を。
 たくさん、たくさん-----殺したから、ね)

ねえ良祐、あんたは、こんな風に死んだの?
智子、あかり、それにマルチ。
あんた達は、こいつを許せる?
由依、あたし、どうすればいい?

天を仰いで皆に尋ねる。
-----答えは、ない。

死人は帰ってこない。
応えてくれるのは、唸りをあげる風だけだ。
眼を、口を、強く閉じて、ゆっくりと息を吐く。

「そ」
たっぷり時間をかけて息を吐き、あたしはさんざん迷った挙句、短い答えをよこした。
(みんな、これでいいかい?)


一行がぞろぞろと歩き始める。

あたしも群れの片隅に身を置くように、遅れて歩き出そうとしたところで、大事なことを
思い出す。
(ああ、あたしとしたことが、忘れるところだったね)
そのまま、かちん、と刀を引き抜き風を切るように草を薙ぐ。
風にのって流れる花を拾い上げ、軽く束ねると、群れから逆行するように歩く。

戦闘用HM-12。
(マルチ、あんたの-----妹だよね)
あまり原型はとどめていないけれど、解る範囲で整えてやる。
幸い腕はだいたい残っていたので、胸の辺りで手を組ませ、花を持たせてやった。
(妹のオイタは、止めておいたからさ。
 だから-----のんびり寝てていいよ)
右手に刀を持ったまま、左手で軽く拝む。

(-----さよなら、マルチ)


大きく遅れたあたしを待つように、一人遠くで立つ影があった。
「晴香」
「…ああ七瀬。ごめん」
髪を切ったせいで、一瞬それと解らなかった。

しばらく二人で黙って歩いていたが、やはり聞いてみる。
「…ねえ」
「ん?」
視線を交えもせず、お互い遠くを見ながら会話する。
「もしも、あたしが死んだらさ。
 …ああして、花でも添えてくれるかな?」
微笑を浮かべて、言ってみる。

七瀬はちょっと驚いた顔をしたけれど、すぐに真顔になって答えてくれた。
「…そうね。
 花くらいは、探してあげるわ」
そしてニッと歯を見せて笑い、言葉を続ける。

「もう髪に、余裕はないからね」


あははは、と。
二人笑う声が、風に乗って。
遠く遠く、視線の遥か先へと、流れていった。


【戦闘用HM-12 起動不可(死亡)】
【長瀬源三郎 瀕死(意識不明)のまま放置】

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