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記憶の彼方へ


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――君、朝、あの空き地で、何をしてたんだ?
――…………
――こんな雨の中で、ラジオ体操でもしてたわけじゃないだろ。
――ラジオ体操です。

確か、それが彼女との出会い。いや、正確にはクラスメートだったわけだから…厳密には違うんだが。

それからの一年は、確かに楽しかった日々。
俺と、茜と、詩子と。
本当に、楽しかった。心からそう思う。

気がつけば、雨の似合う少女、里村茜のことを本当に好きになっていた。
それは、初恋というわけじゃなかったけど。
『初恋は実らない』とよく言われているから、それはそれでいいのかもしれない。

俺が、彼女と雨を巡り合わせたくなくなったのはいつだったのだろうか。
あれは、いつかの雨の日。

――待っている人がいるんです。
――あいつ、傘持っていなかったから。
――濡れると風邪をひくかもしれないから…それだけです。

それでも時だけは巡って。
留まっていたかった時間も流れていって。
後悔を残したまま、俺は旅立った。

そして、またここで、忌まわしき死の島で、俺は彼女と出会った。

――ごめんなさい……生きて償っていけなく…て。
――ごめんな…さいっ――!!

それが、最期の言葉。
償う…?それは俺だ。
茜が、茜だけが、罪を背負う必要なんかない。
多分、俺が、茜を追い詰めた。あとは、あいつ…だな。
俺は、そいつは一体何をするべきなんだろう。

大切な人達が――俺の前から消えて…
大好きだった人が――俺の前から消えて…

俺は、一体何をすればいいんだろうか。

――……私が待たなければ、誰が彼を待つというのでしょう。
――……私が、待ち続けなければ、今までの私は、何だったのでしょう。

確かに、そう言った。
すべてを失って、今俺が一番やりたいこと。
ああ、俺は、そいつに会いたいのか。
俺は、茜がずっと待っていた、あいつに会いたいのか。

そうだな、俺が、代わりにずっと待っててやるよ、あの空き地で。…必ず、生きて帰ってな。

生き残ったら武器のテイクアウトは可能なんだろうか?それだと楽でいいな。
帰ってきたそいつに、真っ先に鉛玉をぶち込んでやりたいんだからな。

俺がやりたいことを成すべきに、生きて帰るのが大前提。
俺が、今まで考えたこともなかったこと。
ゲームに、乗るか反るか。
生きて帰れるなら、どちらでもいい。
茜も…あゆも、名雪も……みんなみんな…いなくなったんだから。
他にやりたいことなんて、なくなっちまったんだからな。

「ぐ…ぅ…」
目が覚めれば、見知らぬ天井。湿って腐りかけているかに見える、木の天井。
(ここは…どこだ…?)
どうやら、小さな古びた小屋…のような殺風景な部屋だ。
また、寝ていたらしい。いつこの小屋に辿り着いたかなんて、分からない。
(ひどく…つらい夢を見ていた気がする……)
未だズキズキと痛む頭を触ろうとした…が……
「て、手が動かない……」
ギリギリ…何かが締め付けられる音。
(縛られてる?)
後ろ手に縛られている。
(………)
一体、何が起こったのだろうか。

「あ、目が覚めた…良かったぁ…」
気の抜けたような声。
寝転がったままの祐一に見えたのは、ピョコンと立ったアンテナのようなピンクの寝ぐせ。
「二人ともっ、相沢さんの目が覚めたよ!」
「……」
状況よく分からない。

「あ、ほんとだ。……生きてる?」
「死んでるように見えるか?」
「まあ、そりゃあ、見えないけど」
生意気そうな茶髪のショートカットの女が話しかけてくる。
「………これは、どういうことだ?」
よく、状況がつかめない。一体自分が何をしていたのか。
覚えてもいない夢と、現実とをごっちゃにして、ミキサーにかけられたような感覚。
(要するに、頭が悪い、だ)
違う。
(気分が悪い、だ)
「いきなりそんな格好にして悪いけど、まだあんたのこと信用できないから悪く思わないでね。
 あんたの武器も預かってるから。
 分かるでしょ?殺人ゲームなんだから。
 あらかじめ言っておくけど、私たちにやる気はないから」
早口でまくしたてる。
「殺人…ゲーム…?」
ようやく、頭の中でその単語の意味を理解する。
そうだった。北川と言い合いになって、天野に会って…謎の男に襲われて…
そして…大切な人達が死んだ…などと信じられずに走ってきたんだった。
「俺も…殺す気かっ!?…くそっ!くそっ!」
悔しさと、恐ろしさで、みじめな位足が震えた。
「だから〜…物覚えが悪い人ね…本当になんでこんなのが生きてるんだか…」
生意気な、女だ。
(もしも俺が殺人犯なら、真っ先に殺すタイプだ)
「ふざけるなっ!なんで俺がこんな扱い受けなきゃならないんだ!」
「…信用できるまで」
「……」

「まあまあ、結花…とりあえず自己紹介しようよ。信用も何も…そんな態度じゃ私達が先に信用失っちゃうよ」
信用…できるかどうかは置いといて、今までのやりとりで祐一の胸の中の恐怖心はいつの間にか薄れていた。
「むう〜…私こういう男嫌いなのよね…」
(俺だってお前みたいなガサツな女嫌いだ……)
結花、と呼ばれた生意気な少女をとりなしたアンテナ少女が改めてクルリと祐一に体を向けた。
「私の名前は、スフィー=リム=アトワリア=クリエールよ。簡単にスフィーでいいわ」
髪の毛の色とぴょこぴょこ動くアンテナが気にはなるが…ガサツ女と比べれば幾分可愛らしい仕草でそう答える。
「――――………」
そして、今まで二人の後ろで沈黙を守っていた女性が来栖川芹香、と短く名乗った。
その雰囲気はどこか神秘的に感じられる。
「んで、私は江藤結花。堅苦しいのは嫌いだから結花でいいわよ」
ガサツな奴が最後にそう告げた。
「んで、ガサツ女…」
「結・花・よ!」
とりあえず、この中でガサツ女と呼ばれたら自分、程度の自覚はあるらしい。
「まずこの縄をほどけ」
「ほどけ?」
「…ほどいてくれ」
「イヤ」
(このアマ…)
「あんたなんか信用できないもの…とりあえずあんたのことが聞きたいわ」
「俺か…俺は相沢……ってそういえばなんでお前ら俺の名前知ってた?さっき俺の名前を――」
「ああ、これに載ってたから。写りの悪い顔写真付きでね…いや、写真のほうが写りいいかも…」
失礼な事を口走りながら、俺の顔写真のついた本を見せつける。
「とりあえずほどいてくれ…俺にはやらなきゃならないことがあるんだ」

「やらなきゃならないこと?」
「人を探している。大切な人達だ」
「……あなたの言ってることは嘘かも知れないでしょ?」
「……殺人ゲームなんてふざけるなよ?…俺は信じない」
「あんたバカ?三日間もこの島にいて…せめて現実は見なさいよ!」
そんなこと言われても覚えてないんだから仕方が無い。頭がまた痛む。
美汐に出会った時に思い出された感覚…血の海に浮かぶ真琴の姿が思い出される。
祐一は激しく首を横に振った。
「殺人ゲームが…というより、俺は大事な人達を失ったとは信じたくないだけだ。
 いや、絶対に生きている」
あゆも、名雪も、栞も舞も、そしてみんなも……真琴だって、俺の創りあげた偶像に違いない。
祐一は、強くそう信じる。
「それって、逃げてるだけよ…」
「見たことも聞いたこともない…信じてくれなくても構わないが、俺はここ何日かの記憶が飛んでしまってる。
 そんな状況でそんなこと…信じられるかっ!」
「だったらなおさら逃げじゃない…つらいことから逃げて…私達だって信じたいわよ!できることならって…
 でも、その為に忘れるなんて最低のことだわ。絶対に」
「……」
北川と似たような台詞。それが、祐一の勘にさわる。
「お前に俺の何が分かるんだ!」
売り言葉に買い言葉。
なんで記憶を失ってしまったかなんて祐一にも分からないが…信じる為に忘れたなんて思いたくもない。
「あんたのことなんて知らないし知りたくもないわ!
 私達だって…口には出さないけどずっと辛いのよ!…ごめんスフィー、私もう我慢できないっ!」
「結花……」

「私は大切な幼馴染を失って…スフィー達は大切な妹を失って…それでもずっと悲しみを心の奥にしまって…
 口には出さないだけで、ずっと、ずっと我慢してるのよ!?」
「結花!」
「私達だって…ずっと、辛かったんだからっ……!!」
「結花…」
泣き崩れる結花をなだめながら…
「ありがと…私も、芹香さんも、おんなじきもちだよ?もう泣かないで」
芹香と、そしてそう言ったスフィーの目にもまた大粒の涙。
「ごめん…ね…言わないように…泣かないようにって…思ってたのに…ごめんね…」
「……」
芹香がそっと、結花の頭を撫で続ける。
「私も…結花とおんなじ意見。忘れちゃ駄目だと思う。絶対に。思い出さなきゃ前になんて進めない。
 進んだと思っても、それは横に走ってるだけだよ」
スフィーが結花の代わりと言わんばかりに、祐一と向かい合う。
「だけど…うん……。信じることは大切だって思うよ。
 私も、心のどこかでけんたろや、リアン、綾香さんや舞さんや佐祐理さん…みんなみんな生きてるって…
 そう信じるだけで強くなれる気がするもの」
今まで、そのやり取りを、黙って聞いていた祐一の顔色が変わる。
「舞!?舞って…まさか…川澄舞!?」
祐一の顔色が真っ青になる。そこで、舞の、佐祐理の名前が出たその意味を。
「えっ…そ、そうだけど……」
「嘘だろ!?舞が…佐祐理さんが…そんな…嘘だ…」
「……」
芹香が、唇を噛み締めるように言った。
――舞さんと佐祐理さんは、敵に襲われて…私たちと離れ離れになって…

「なんだよ…それ…くそっ…俺は…こんなところで何してんだよ…畜生っ…」
「……」
「悪いけど…少しだけ一人にしてくれないか?」
「……」
芹香が、まだ嗚咽を漏らしつづけている結花を肩に抱きながら、ゆっくりと小屋の外へ出る。
そして、スフィーがそれに続く。
スフィーが扉に手をかけながら、言った。
「信じることは大事だって思う。だけど」
一度だけ、祐一を見て。
「信じてるだけじゃ前には進めないんだよ」
ガチャッ…扉がゆっくりと閉められた。
(真琴…舞…佐祐理さん…)

実感が湧かない。当然だ。何も知らないのだから。
(俺だって…思い出したい…俺は…何をしてたのか…何をしたかったのか…)
だけど、あゆ達…いや、真琴達だって絶対に生きてる…と信じることだけはやめたくなかった。

【相沢祐一 捕虜となる】
【江藤結花 サイレンサー付きの銃 一時(?)入手】

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