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歪曲


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パァァアン――

そんな音が、聞こえてくる。
もはや聞き慣れた音。この島で、幾度と無く聞いた音。
その音に、往人は歩む足を止めた。
「――近いな」
呟く。
3つ、重なって聞こえていた足音は全て止まっていた。
無論、往人に聞こえる以上は近くに居る者には全員聞こえている。
晴子も。
そして観鈴も、その音に足を止めていた。
「――また」
観鈴が、口を開く。
「また、誰か、撃たれたのかな……」
沈痛な面持ちで。
暗く、沈んだ声で、そう呟いた。
もう、死は見飽きた。
その島のあちこちに転がる死骸――。
目の前で、腕が飛ぶ光景すら見ているのだ。
だからこそ、辛いのに違いない。
「……けったくそ悪いわ」
隣に立った晴子が、ぼやく。忌々しげに。

―――ァァアアあっ――

続けて、響く奇声。

晴子は、さらに顔を顰めた。
「行こか――気分悪なるで」
そう言って、観鈴の肩に、優しく手を置く。彼女なりの配慮。
――観鈴は、俯いたまま、答えない。
「観鈴?」
往人が声を掛ける。
それと同時に、観鈴は、きっ、と顔を上げた。
使命感を帯びた――そんな顔。
二人に、嫌な予感が走る。
「わたし、行ってくるっ――」
――悪い予感とは何故そうも当たるものか。
森の奥に向かって、二人に、顔を見ずにそれだけ言った。
「ちょ、観鈴っ――!?」
晴子が咄嗟に出した手を、避ける。
そのまま、その手にシグ・ザウエルショート9mmを握り、駆け出した。
「観鈴っ!」
返事は無い。
振り返りもせずに、そのまま奥へと消えて行く。
――無論、少し遅れて二人も駆け出した。
「何やってんだあいつは……」
走りつつ、ベネリM3ショットガンに弾を入れる。
念のためだ。
「……ホンマや、捕まえたら一発殴らなあかんわ」
そう言って、傷を抑えていた左手で拳を握った。
その両手には、何も握られてはいない。



―――。
どうして走っているのか。
二人を置いて、何故突然走り出したのだろう?
足は震えている。
勢いだけで飛び出したわけだが、銃を握る手も震えている。
恐らく、撃つ事など到底、無理だ。
だが。
足は止まらない。
止める気も無い。
――嫌だった。
このゲームが。
殺し合いが行われる事が――
自分を護る為に、往人が誰かを殺そうとする事が――
そして、自分の為に、母親が傷付いた事が――。
どうして、こうならなければならない?
何故、殺し合いなどする。
―――。
分かってる。
そんな事は、誰にでも分かる。
恐怖。
恨み。
そして、生き残るという欲望。
それらが、血の惨劇を引き起こしている。
自分は、殺せない。
だが、殺す事が出来ないからこそ、何か出来る事があるのではないか?
そう思った。
だからこそ、走る。
手遅れになる前に。

……無論、それだけではない筈だ。
走りながら、思う。
――もう、足手まといになるのはこりごりだ、と。
銃を握る。
確かな重みを持ったそれが、僅かに勇気を与えてくれるような気がした。
そして木々の間を抜けていく。



「―――」
「―――」
無言。
最後の繋がりを求めて、堅く手を握った二つの死体。
少年は、悲壮な顔を。
もはや光を灯さぬ瞳を、遠い空へ向けて――泣いていた。
それでも、少女は、微かに笑っていた。
死の直前に何を見たというのだろう?
無論、彼らには知る由も無い。
「――この島に居る以上は」
少年の声。
「殺さなくては、生きる事が出来ない。他の誰かの命を奪って、自分だけが生き残る」
拳を握る――
腕が震えているのは、崩壊によるものだけではあるまい。
その一見静かな表情の内に潜むのは――怒り。
「ふざけた話さ――」
締めくくる。
郁未は、返さない。

――二人は、もはや目の前で死んだ彼をただのマーダーとは思っていなかった。
否。この島に居る全てのマーダーもそうだ。
彼らは、この島の被害者。
狂った島の中で。
何かの理由の為に、他の誰かの命を奪っていく。
悲しみを巻き起こし。
そして最後に、己もその中で死ぬ。
彼は。
きっと、本当に、彼女を――
「――埋める?」
提案。
ぽつりと呟かれた郁未の言葉に、少年は無言で頷いた。

本で穴が掘れるわけがない。
無論、包丁でもだ。
適当に、大きめの枝を包丁で叩き折る。
郁未はそれを少年に投げ渡した。
「傷、大丈夫かい?」
――郁未の服には、あちこちに切れ目が作られていた。
ピアノ線。
切れた事で助かったものの、あれで無事でいられる筈も無い。
服の切れ目から、微かに血が滲んでいるのが見えた。
「大丈夫――舐めれば治るわ」
かつ、と枝を叩く音。
「その時は、手伝ってもらうわよ?」
「――やれやれ。良い趣味してるよ」
苦笑気味の、溜息。
それは、暗い、暗い雰囲気を吹き飛ばそうとするようで。
――そして、随分と儚いものだった。
かつ、と枝を叩く音。あと少し。
かつ。
――ばきん。

「……っ」

人の声。
咄嗟に、振り向く。
――少女が居た。
その手に、銃を握り。
左手で、口を抑え。
そして、愕然と、その目が見るのは。
二つの死体。
――違う。
違うんだ!
二人は、そう叫ぼうとして。
だが、それよりも早く。
さらに二人の人物が、森の影から現れる。
「観鈴っ――」
現れたのは、男と、女。
――あれは。
ずっと前に――このゲームが始まった頃に、少しだけ言葉を交わした人物。
確か、国崎往人という名前だった筈だ。
共に連れている女は、知らない顔。
国崎は、少年の顔を見て、僅かに眉を寄せ。
それから、少女の様子に気付いたようで。
少女の見ていたそれに、目を見開いた――。
――ああ。
どうせなら、蝉丸さんだったら良かったのに――。
何でこうなってしまうのか、といった顔で。
少年は、そんな事を思った。



【003天沢郁未、048少年 023神尾晴子、024神尾観鈴、033国崎往人と接触】

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