有罪。
次の瞬間、――僕、七瀬彰は――軽い頭痛と共に目を覚ました、
目を覚ましたのは良い事だ。
もう二度と目覚めなくてもおかしくない程の怪我だった訳だし。
体の調子もすこぶる良いし、少し寝ただけなのに、だいぶ頭痛やその他諸々の傷も癒えてきた訳なんですよ。
霞んでいた視界もなんだか今はすがすがしい!
壁のポスターのあんな小さな文字も明瞭に見える。
なんて素敵な目覚め! わはははは。
豪快な笑いも飛び出す。
こんな死地にいるのにも関わらず、僕は時間を重ねるごとに、だいぶ図太くなっていた。
というか、やけにテンションが高い。身体がぽかぽかと熱いからか。良い調子だ。
まあ、正直申し分ない目覚めなんですよ。
しかしね。どうも不可思議な事があるんだよ。
聞いてくれますか? 我が主よ。
何故? なんで?
何故、初音ちゃんが裸で、僕の横で横たわっているんでしょうか?
「――今寝たと思ったのに、すぐ目が覚めたね。もう、大丈夫なの? ――ごめんね」
本当に、申し訳なさそうな顔で初音は、ごめんなさい、と、云った。
――待て。
待て。え?
冷静になりたまえ、七瀬彰。そう、クールに。
横には、初音ちゃんの裸。
――裸?
薄い胸。白い肌。赤く染まった頬。
「もう。そんなに見ないで、彰お兄ちゃん。もう、服着るね」
そう云って、初音は下着を付け、ベッドの横に置いてあった上着を着込む。
シーツには赤いもの。血、なのでしょうか?
僕は漸く、理解したわけです。
「――初音ちゃん」
「ごめんね。わたしのせいで、お兄ちゃんに」
思い出しました。
思い出しましたよ、やったー、思い出せました。わはははは。
笑えん。全く笑えない。
僕は――遂に、やってしまったのだった。
小学生相手に。
ご、
「ごめんっ! 初音ちゃんっ!」
な、なんて事をした、自分。
たぶん、時間にして十五分ほど前、僕は、自分の昴りを、この目の前の少女にぶつけてしまったのだ。
柔らかな身体に溺れた僕のココロ。
明瞭と覚えているじゃないか。初音ちゃんの肌も、初音ちゃんの唇も、そして、初音ちゃんのその声も。
「ううん――彰お兄ちゃんは、悪くないよ」
初音は、本当に申し訳なさそうに、笑う。
うん。
そうさ。
僕は確かに初音ちゃんが好きだったよ、好きだったけどさ、
それは、守ってあげたい対象、つまり、妹みたいに思っていたからであって、
決して性欲の対象として見ていた訳じゃなかった筈なのだ!
たぶん。
自信がない。
目が覚めた今でも、正気に戻った今でも、僕は初音ちゃんを抱きしめたいと思っている。
唇を重ねたいと思っているし、肌を重ねたいと思っている。
馬鹿な!
僕は小学生に欲情するようなロリータコンプレックスだったと云うのか!
犯罪者の仲間入りか! 僕は有罪ですか!
否定出来ない。僕は今、初音ちゃんの事を心底愛している! 有罪でも構わない!
そして、僕の思考が多少落ち着いた瞬間――罪悪感が走る。
――馬鹿か? 僕は。そんな、自分の事を考える前に。
僕には、彼女に云う言葉があるんじゃないか。
「――大好き、だよ。初音ちゃん」
そう。
「わたしも」
「大好きだから、抱いたんだ。それだけは、間違いない。本当に、ありがとう」
「――ありがとう」
「決して、一時の欲望に溺れたんじゃない。確かに、僕は少し、おかしかったかもしれない。
けど、どんなに僕は狂っても――君じゃなければ、あんな事はしなかった」
乱暴でごめんね。
抱き寄せて、僕は、遂に一線を越えてしまった事を、けれど、後悔する事はなかった。
好きなのだ。たぶん、本当に好きなのだ。
「大好きだ」
ならば、たとえこの子が小学生でも――構わないではないか。必ずこの娘を守り、僕は、帰る。
「たとえ君が今小学生でも、十年後、必ず結婚しよう」
にしても、なんて馬鹿な事を云っているんだ、僕は。
小学生でも今時こんな事は云いませんよ。は。
――だが。
少しだけ、むっとした顔で――初音ちゃんは云った。
「彰お兄ちゃん? わたし、一応、高校生なんだけど――」
僕は、取り敢えず、首を傾げてみた。
「マジか」
「マジです」
沈黙。
沈黙は金。金は高価。高価はダイヤ。ダイヤは硬い。硬いは――ナニ?
「と、と、とにかく――耕一のところに行こう。今の状況を知りたい」
だが、初音は、つん、と拗ねたように、不満げな顔をしている。
そりゃそうだ。きっと初音ちゃんは、自分が小学生だなんて思われていなかったと思っていた筈で。
「ご、ご、ご、ごめん、本気でごめん」
初音ちゃんは少し、自嘲気味に笑って、
「――そっか、ずっと間違われてたんだ……」
はぁ、と息を吐いた。
その様子があまりに可愛くて、僕はまた彼女を抱きしめてしまった。
「彰、お兄ちゃん」
好きだ、好きだよ。
僕は、もう一度――その唇を塞いだ。
別に、彼女のためなら犯罪者にだってなるつもりはあった。
しかし、高校生と分かれば児童ポルノ法は適応されない!
堂々と、というのも変だが、それでもやはり、なんとなく、安心したのである。
「そろそろ、行こうか」
唇を離して、赤く染まった初音ちゃんの頬を撫でている時――僕は、初めて自覚する。
身体が、ほんのりと熱い。それは、心地の良い、熱さ。
失われていた力が、戻ったような。
まだ、初音ちゃんのナイトを演じられそうな、そんな気さえする。
それが僕の自惚れだとは分かる。――けれど、盾くらいにはなれそうな程には、戻った。
初音と連れ添って部屋を出る。
その時、がたり、と云う音が、部屋の外から聞こえたような気もしたが――。
少し足下がふらつくが、初音の肩を借りながら、なんとか僕は耕一達がいる部屋に入った――
「お早うございます」
僕は笑って云う。
だが――その部屋の、何処かおかしな雰囲気に気圧されて、僕は、言葉を失いかける。
マナちゃんが、大きく――やけに大きく、溜息を吐く。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ……」
負けたぁ、負けましたぁ、などと云っているように聞こえる、聞こえます。
そして、お面を付けた月代ちゃんが、――やはり、大きな溜息? 溜息じゃないか?
「(;´д`)初音ちゃんすごい……負けたぁ」
などと呟く。
僕は――初音ちゃんの顔を見る。真っ赤。真っ赤っか。
僕はと云えば、青ざめた顔をしているだろう。きっとスイカみたいに真っ青だ。
せんまっさお。あるいは二千まっさお。
そんな洒落を考えてみたが、あまりにつまらなくて僕は涙が出そうになる。
耕一や七瀬さん、晴香さんや蝉丸さんも、知っているのか? 僕の、僕と初音ちゃんの痴態を!
「お、起きたか、彰」
だが、耕一はそう云って、何も知らないかのように、笑う。
「ま、何にせよ無事で良かったよ」
知らないのなら、それは、まあ、幸いだったが。
「にしても、俺も疲れてるのかな――幻聴が聞こえてさ」
「うむ、俺もだ」
蝉丸もそう云って頷く。修行が足りぬ、などと、ぼやいている。
まあ、二人の顔を、僕はしばらく直視できなかったのだった。
「あ、な、七瀬くん、お、起きたのねっ!」
扉を開けて、七瀬留美が入ってきた。
「わ、わ、割と、元気そう、元気そうじゃない? よ、よ、良かったー」
顔が真っ赤であった。
「あ、あ、あははははははは」
僕は、恥ずかしさのあまり穴に入りたくなった。
【柏木初音 遂にその年齢が彰に明らかになる。目覚めて、作戦会議の方へ。
わりと鬼の血は落ち着いてきてる印象? 風呂イベントは他の人にお任せ。】