七瀬のないしょ
蝉丸と耕一は施設襲撃の作戦会議中であった。
「……む」
ペンで施設の近くの地形を描いていた蝉丸。彼の突然の反応に耕一は首をかしげた。
「どうかしました?」
「い、いや、なんでもないと思うのだが」
「……?」
よく分かんない人だな、と耕一。
蝉丸もよく分かっていなかった。
当然である。
――何故。
何故このような時に"喘ぎ声"が聞こえるのか。
随分と血を流したせいで、気の疲れでも現れたか。
それとも、本当に誰かが――。
――まさか、な。
空耳に違いない。
そう思うことにする。
蝉丸は、今も微かに聞こえる「その音」を無視しつつ地図を描き続けることにした。
しかし、気が散って仕方がない。
氷まくらの交換に来た七瀬は、扉越しに怪しい雰囲気を感知した。
激しい、物音。そして呼吸音。
(…ま、ままま…まっさいちゅー…?)
そうだ、これは…間違いない。
真っ最中、だ。
(ちょちょ、ちょ、ちょっと、何してんのよ…)
氷まくらをだきしめて、顔を赤らめたまま呆然と立ち尽くす七瀬。
いつの間にやら近くに晴香が来ていることさえ気が付かない。
「七瀬?何してるの?」
「は!?ははは晴香!? ななな何でもないのよ!?」
猛烈に慌てる七瀬。
「…何でもないって事ないでしょ、声裏返ってるわよ。普通に話しなさいよ?」
「い、いいから今すぐ立ち去るのよ!乙女と明るい家族計画の名にかけて、ここを通すわけにはいかないわ!」
弁慶よろしく戸口の前で仁王立ちする七瀬。
「な、なにムキになってんのよ…(家族計画って何よ)」
「いいから!行くわよ!」
晴香の背を押して、そのまま部屋を離れていく七瀬。
「文句があるなら選びなさい!馬に蹴られるか!アタシに殴り殺されるか!あなたには二つに一つしかないのよ!?」
「ハァ?…わかんないヤツね…(馬って何よ)」
憑かれたように捲くし立てる七瀬。
そして妙に興奮した七瀬が晴香を突っ張りで外へと押し出す。
「ほらほら! お風呂の準備中なんでしょ!」
「え、ええ…」
…氷まくらは、のぼせた七瀬が全て溶かしてしまったそうだ。
「耕一君」
「なんです?」
振り向くと蝉丸はこめかみに手を当て、首を振っている。
「済まんが場所を変わってもらえないか?…疲れているようだ」
「ああ…構わないけど…」
「……む」
耕一の反応に蝉丸は首をかしげた。
「どうかしたのか?」
「い、いや、そうじゃないんですけど」
「……」
君も疲れているのだな、と蝉丸。
耕一もそう思っていた。
当然である。
――何故。
何故このような時に"喘ぎ声"が聞こえるのか。
変身後遺症のせいで、幻聴でも聞こえたか。
それとも、本当に誰かが――。
――まさか、な。
空耳に違いない。
そう思うことにする。
耕一は、今も微かに聞こえる「その音」を無視しつつ見回りを続けることにした。
しかし、気が散って仕方がない。
「……」
「(´ー`)…行ったわね」
七瀬たちと入れ替わるように扉に立つ少女が二人。
マナと、月代。期待に目を輝かせて、戸口に張り付き、覗いてみたりする。
「わ…」
「(゜д゜)…」
思わず言葉を失う。
再び声を取り戻すのには、たっぷりと時間を要した。
「す…進んでるわね…」
「(´д`)負けた…」
その頃には、激しい敗北感に苛まれていたという。微妙なお年頃、である。
「蝉丸さん」
「どうした?」
振り向くと耕一はこめかみに手を当て、首を振っている。
「すみませんけど、また場所を変わってもらえないでしょうか?…疲れてるみたいなんで」
「……」
「あの…蝉丸さん?」
「……」
…軍人は、冷徹だったという。
「外から見た感じだと施設はこれぐらいの大きさだと思うのだが」
会議は進む。