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疑う事、信じる事


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「あ、あのっ!」
 その声に、互いの動向に最大の注意を払っていた往人と少年、二人に目を奪われていた晴子、郁未が一斉にその声の主を見た。
 静寂を破ったのは――観鈴だった。
 一斉に反応した全員に、観鈴は驚いたが、言葉を続ける。
「あ、あなたがたは、やる気になってるんですか?」
 少し言葉を詰まらせ、手足を震わせがら観鈴は聞いた。
「観鈴!お前はだまっ――」
「往人さんは黙ってて!」
 声を大きくし、観鈴が叫ぶ。
 その声は、この島に来てからに来てから――いや、普段の生活でも全くといっていいほど声を荒げない観鈴の大声だった。
――前にも聞いたな、今の観鈴の言葉。
 その言葉を聞いた往人は、何故か反論できず、一瞬、そんなことを考えていた。
「どうなんですか?」
 もう一度、観鈴が聞く、今度は、ハッキリと。

「え?あ、うん。一応、やる気にはなってないよ。僕も、横にいる――天沢郁未って人も。君達は、どうなんだい?」
 少年は答えた。顔に明らかな戸惑いを見せながら。
 当然だろう。
 この緊迫した状況で、そんな質問を出来る人間など、そうは居ない。
「私達も、やる気にはなってません」
 もう、観鈴は震えてはいない。
 凛とした表情と、しっかりした声で観鈴は言い切った。
「だからって!」
 再び新たな声、その主は――郁未だ。
「ハイそうですかって、簡単に信用できると思っているの?お嬢ちゃん」

 少年はともかく、郁未からは、観鈴への猜疑の視線が露骨に現れていた。
(まあ・・当たり前か)


 往人は思う。
 誰だってこんなとこじゃ、人を疑ってしまう。
 他人をを信じられない。信じることが出来ない。
(お袋のときがそうだったな。俺を信用させといて、どっかに行っちまった。思えば、あの時から、俺はこんな性格になっちまったのかもな)
 更に、思う。
(だから、俺は心から誰かを信用できない。誰かを信じて、裏切られるのが怖いんだ)
 それは、往人の心の中にある悲しみ。
 深く、深く、彼に根付いたもの。


 そんなことを考えている時、郁未の声が往人を現実に引き戻した。
「大体あなただって、銃を持ちながらそんな事言ったって――」
「なら、これでいいんですか?」

 ヒュッ!

 その瞬間、その場にいた全員が目を見開いた。
 観鈴が持っていたシグ・ザウェルショート9mmを郁未に投げ渡したのだった。
 それは、この状況では最も無謀な行為。
 相手に殺してくれと言っているようなものである。
 だが観鈴はそれを躊躇いなくやった。
「観鈴!」
 ベネリM3を少年と郁未に向けつつ、往人は観鈴に近寄った。
「バカ野郎!お前、自分が何したかわかっているのか!?」
 往人の大声が周辺に響き渡る。
「ちょっ、ちょい居候!」
 近寄った晴子が往人をたしなめるが、そんな言葉は往人の耳には入ってはこなかった。
「さっきもそうだ!お前一人のせいで、みんな死ぬかもしれないんだぞ!」
 観鈴は黙っている。

「大体お前はお人よし過ぎる!そんなんじゃいまに――」
「往人さん」
 観鈴がいきなり往人の言葉を遮り、
「人を信じなきゃ、ダメだよ」
 まっすぐに往人の目を見ながら、言葉を続ける。
「往人さんの言ってることは正しいと思う。それが、ここでは当たり前かもしれない。でも、私はそれだけじゃダメだと思う。
 みんなで生き残るんでしょ?だったら、そんな風に疑ってばっかりじゃ、誰も仲間に出来ないよ。
 みんな死ぬのが怖いんだよ、私だって怖い。死にたくないもん。
 殺しあうのだってそう。本当はみんな弱くて、他人を信用できないだけ、だから殺しあっちゃうんだよ。

 急に、往人の体に重みが加わる。観鈴が抱きついてきたのだ。
「だから、もっと信じてみようよ、この人達も、他の人も」
「みすず・・」
「みんなで帰ろうよ、あの街に。ね?」
「ああ・・」
 往人は強く頷く。
 往人は、もう少年と郁未を見ていなかった。

 その時、少年も戸惑っていた。このゲームであんなことを言える少女に。
(あれが・・本当の強さってやつなのかな?・・)
 ふと、そんなことを思う。
 力では決して、得る事の出来ない強さ、それが、観鈴にはあった。
 それは少年と郁未に、足元にあるシグ・ザウェルショート9mmを忘れさせるものだった。
 しかし、それに気付いた郁未が銃を拾い上げる。
「やめ――」
「わかってるわよ、もう向こうに敵意がないことぐらい」
 いくらかふてくされた様子で郁未は三人を見る。
「ちょっと!そこの三人!」
 何故か機嫌が悪い、郁未であった。



「居候!」
「ん?」
 観鈴と抱き合ったままの往人に晴子が声を掛けた。
「どアホ!いちゃついとる場合か!前見い!」
「しまっ・・」
 今の状況を思い出し、慌てて二人の方を向いた。

 ベキッ!

 ちょうどタイミングよく、往人の顔に黒い塊が直撃した。
「痛う・・くそう!」
 往人は痛みをこらえつつ、二人の方にベネリM3を構えた。
「アホ、よく見てみい、向こうサン、とっくにやる気はないで、ウチが前見いって言ったのは、投げ返された銃に気をつけろってことを言ったんや」
「なに・・・」
 よく見ると落ちている銃は確かに観鈴が投げた銃だ。
 当の二人はというと。
「ひどいですねぇ国崎サン、投降した相手に銃を向けるんですか?」
「ったっく!イチャイチャしてるからせっかく投げ返してやった銃にあたるのよ!」
 とっくに手を挙げていた。
 つまり――降参ということである。
「ね、往人さん、向こうも分かってくれたでしょ」
(・・なんか・・釈然としないな・・・)
 往人にしてみれば、観鈴のぬくもりを感じている間に、気が付くと二人が手を挙げていたのである。
 納得しろという方に無理がある。
「とりあえず二人とも手、下げや」
 何故か晴子までもが納得していた。
(観鈴のおかげ、か)
 結局、そう自分に言い聞かせ、心の中の自問自答を終わらせ、二人に声を掛けた。
「晴子の言う通りだ。とりあえず手、下げていいぞ」

【033国崎往人023神尾晴子024神尾観鈴と003天沢郁未048少年 和解】

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