漢と乙女の狭間で


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(まさかあそこであんなことをしていいらっしゃいますましとは!)
 かなり日本語の扱いかたを間違えた七瀬がここにいる。
 漢字のテストで100点を取った美少女の言動ではない。カンニングしたのだが。
(ええっと彰くんはあれはアレで大丈夫そうだから…。よ…、葉子さんの介抱を…。
 そう…。そう!私の乙女として怪我人の介抱&手当てを!!)
ポーーーーーーーー…
「やっぱり綺麗ね…。葉子さんって…」
 ベッドに横になっている葉子を見て思わずもれた。
 七瀬が目指す乙女とはちょっと違うかもしれないが、なんというか「お嬢様」としての美しさがある。
 気品に溢れていると言えばいいのだろうか。女の七瀬でも見とれてしまう。
 しかしあの気の強そうだった女性が可愛い寝顔で横たわっている。
 表情は…。傷が痛むのだろうか時々うめく。そして汗を結構…。
 七瀬は持ったきていたタオルで葉子の汗をぬぐい始めた。
(なんというか、怪我して動けない女性を献身的に介抱? これこそ乙女のなせる技よね!)
 上半身をはだけさせて拭くときは、流石にちょ〜とだけ照れる七瀬。
 ふとさっきのことが頭をよぎった。
 彰君が初音を無理やり押し倒す。
(いや、同意があったみたいだから無理やりじゃないんだけど…。
 弱い立場の女の子を押し倒すっていうか、悪戯っていうか〜それはやっぱりまずいんじゃないかな〜。
 てっ…て…っていうか、なんであんなことしてんのよ!)
 彰が初音を強引に押し倒している情景を想像してみる。
(いやそれはそれで嗜虐心がくすぐられる…かな…?)
 ちらりと葉子を見る。
ぽーーーーーーーー…
(はっ!?)
「だめーーーーーー!」
 七瀬小声で絶叫する。
「ど…どこにこんな乙女がいるのよー!!
 ダメダメ! 普通が一番。そうよ…!普通が一番なのよー!
 やっぱーあたしぃー普通の乙女みたいなー! うわっ、これ超かわいくない?
 ちょーかわいいモジャー!」
「ん…ふぁ…」



 葉子は暗闇の中を走る。追われているというのに自分には武装のひとつも無い。
「足が止まっているぞぉ」
パァン!
 音と同時に足元に着弾した。
 驚きでバランスを崩し倒れる。!」
 高槻は、高く、高く笑った。そして、言った。
「服を脱げっ! ストリップだ!」
「ふ、ふざけないでください! そんな事」
パァン!
 仰向けに体勢を直した葉子。
 その顔のすぐ横に着弾。
「――まあ、良い。どうせお前は無力だ。強引に犯して殺すのも一興だ」
 高槻が上にかぶさってくる。
 葉子が固く目をつむる。



 自分の脚にをなでまわしてくる男の手。
(あれ?)
サワッ…
(気持ち悪くない…)
 ゆっくりと目を開ける。
 目の前の男が高槻ではなくなっている。
 葉子にも良く分からない。良く分からない『やさしい誰か』
 脚を撫でられている。
(なんか良くわかんないけど…。気持ちいい…)
「ん…あ…」



「ん…あ…」
 ふきふき…。
「んっ…」
 ふきふきふき…。
「あ…あ………」
 ふきふきふきふき…。
 葉子の脚の汗をふき取る七瀬。
 ふくたびにかえって汗が出てきている気がしないでもない。
「葉子さん…。これじゃ切りがないわよ…」
「やっ…あ…」
 葉子の目が開かれる。
 ぽーっとした半開き状態で七瀬を見つめる。頬は赤い。
(!!!!???!!?!?)
ドタンッドカシャカシャカシャカ!!
 七瀬はベッドから勢い良く転げ落ちると、しりもち体勢のまま部屋の入り口まであとずさった。
(絶対違う! 絶対乙女じゃないことしてたーーーーー!)
「よよよ葉子さん起きたのね意外と元気が出たみたいだし良かったわねあたし皆に報告してくるね!!」
ガチャッバタン!
 そこにいたのは元凶っぽい男、七瀬彰。
「あ、な、七瀬くん、お、起きたのねっ!」
 リビングルームになだれ込んだ七瀬が言う。
「わ、わ、割と、元気そう、元気そうじゃない? よ、よ、良かったー」
(落ち着けー、落ち着けあたし。落ち着かないと性格が乙女じゃない方向にっ…
 そう、落ち着くの。落ち着いて冷静さを取り戻すことこそが天上界への扉を開くカギをうんたらかんたら)
「風呂できたわよ」
「うむ……それでは女性達に先に入ってもらうとしよう。
 念のため複数の方が良い。最初は……晴香君と留美君で入ってくれ。
 月代たちはあとで3人だ。
 見張りは俺達がするから。後ろは気にしなくていい」
(え…)
「落ち着けない…」
―――「乙女」と「漢」はよく似てる…―――
―――だがそんな事はどうでもよかった…―――

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