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偽善


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少し前までは強かった風も、今では弱い。
それに流れていくように、何かの音。
土を掘る音。
木々の向こうに、木の棒を持った二人の男。
三人の女の姿がその向こうに。
そして――死体は彼らの隣に。
「これくらいかな」
そう呟く少年の手に握られているのは、先を尖らせた木の棒。
先端は土にまみれて茶色く染まっている。
「墓と分かれば良いだろう。わざわざ、こだわる必要は無いな」
同じく土にまみれた棒を放り捨てる往人。
額が汗に塗れていた。
少年は、棒を捨てると遺体を抱え上げた。
祐介。その目は既に閉じられている。
続くように、往人が少女の遺体を持った。
大きめの穴が一つ。その中に、下ろす。
寄り添うように眠る二人――
少年は、目を閉じた。
――黙祷。


「――偽善、だな」
少しして、往人の言葉に少年が目を開けた。
「自分が殺した奴の冥福を祈るのか?」
「―――」
非難じみた言葉。
――実のところ、己への皮肉でもあった。

人の事は言えない。それは往人自身が分かっている事だ。
己の為に――或いは、誰かの為に、何度か人を殺めた。
躊躇った事は無い。
ただ、それでも――
自分が殺した者の姿に。
死に際の、悔恨を残して逝く者の姿に。
――"情け"が顔を見せた事があった。
それは、偽善だ。
そんな自分への憤りが、不意に顔を表しただけの事。
八つ当たりに、過ぎない。
「――確かに、偽善かもしれない」
目を開けた時のままの顔で、少年は返す。
「僕が墓を作ったところで彼が喜んでくれるとは思わないよ。
 それでも、僕は――。何も思わずに殺せるやつには、なりたくないからね」
「………」
そんなものは、エゴだ。そう言い切ってしまう事は出来た。
だが。
往人は、口を開かなかった。
開くことが、できなかった。
少年は、墓の横でしゃがみ込むと、祐介の手を握る。
少し離れてしまった、二人の手を、繋ぎ直す。
――その時。
何となく、祐介の顔が、笑ったように見えた。


「これからどうするかでも決めておくか?」
近くに置いたベネリM3を拾い上げながら、往人。
「5人も居るんだ。何か出来る事くらいあるんじゃないのか」
「――そうだね」
偽典を拾い上げ、少年が返す。
その足で3人の居る所に向かった。
――途中、振り向く。
「さっき、君は」
往人も足を止めた。
「僕が目を閉じている間に――目を、閉じていたのかい?」
「―――」
数秒、沈黙。
止めていた足を動かした。

答えは、無い。

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