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クリムゾンレッド


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――ァンッ

遠くから、そんな音。
刹那。少年の身体に、衝撃。
押し出されるように、息が飛び出す。意味の成さない声。
全身が弾け飛びそうになる。強烈な打撃。なまじ、貫通した方がいいくらいだ!
撃たれた。誰かに、"遠くから"。
弾き飛ばされた弾丸は、目の前に居た往人の肩に食らいついた。
コンマ数秒の出来事。いや、それにも満たない程の。
愕然とした顔。何故、とその目は言っている。
違う。違うんだ。僕達は銃を持ってない。
君を撃ったのは僕達じゃない!
答えたい。
……答えられない。
頭を地面に打ち付けられる。再び浮遊感。次に顔を打ち付けられた。
抗いようの無い浮遊感。そしてそれも終わる。
何故――何故。誰が。どうしてこんな時に!

――どくっ

嗚呼。まずい、"来た"のか?なんて最悪な。参ったな、本当に。
頼む。郁ミ。

――どくん

頼ム、今は。ニげてくれ――逃げてくれ!
まずイこトになリソうなンダ。いや、なる!
だから。

けど、声は出なかった。



ガキィンッ!
「ごぉっ!!」
「……っ!」
遠くから聞こえてくる、銃声。
甲高い音。何かの弾ける音。苦悶の声。鮮血。
風。
郁未の横を何かが通り過ぎる。
目の前にあった筈の少年の姿が消えている。
一瞬の間。
咄嗟に振り向くと、少年の身体が人形のように転がっていくシーンが見えた。
……は?何で、あなたがいきなり転がってんのよ。
二転三転。止まる。
――起き上がっては、こない。
幻でも見ていたかのような顔だった郁未が、無意識のように立ち上がる。
包丁を握り。泥塗れで、うつ伏せに倒れ伏したままの少年に駆け寄った。
「だっ――大、丈夫?」
3秒。
さらに5秒。
返事無し。
瞬間。郁未は、心臓をきつく締め上げられるような感覚に襲われた。
何。え?まさか――死んでる?
余裕のありそうな顔で。いつもの顔で、返事を返さない少年。
それは、郁未にはあまりにも非現実的過ぎる。
極、僅かに残った平静さが、少年の身体を地面に転がす。反転させた。
目が、閉じていた。
咄嗟に、少年の口に耳を近づけた。押し当てたかもしれない。
―――。

ようやっと捉えたのは、呼吸音。ひゅうぅ、と風が漏れたかのようなか細い息。
それでも、生きている。郁未は、僅かばかりに安堵する。
腹部を見やる。両手が当てられている。
無理矢理それを剥がすと、服に円形の穴が空いているのが見えた。
穴の縁が、焼けたように黒い。弾痕には違いない。
だが、本当ならそこから出ている筈の血は流れていない。
服を引き剥がす。人目など気にしない。こんな状況に道徳を持ってきてる場合か?
それで、そこにあったものは。
「……紙」
腹部を覆うように、何枚かの紙が糸か何かの植物の茎で括り付けられている。
こんなもの、いつの間にやったのか?
ともあれ、その糸のようなものを包丁で切り取った。
へこんだ紙。汗でへばり付いているらしい。
剥がすように取り除いた。少年が、痛みで呻く。
――痣。
大きな痣。真ん中の辺りを中心として、赤黒い色に変色している。痛々しさに、目を背けそうになった。
しかし。なるほど。どういう原理か、この紙のお陰で弾丸は通らなかったらしい――
――弾丸?
銃。
そうだ、撃たれた。誰に?
―――。
なるほど。

めくり上げた少年の服を、戻す。郁未が、ゆらりと、立ち上がる。
血の臭い。
振り向く。先程歩いていった筈の晴子と観鈴の姿。往人を囲むように。
晴子。ベネリM3を両手に。
観鈴。シグ・ザウエルショート9mmを。そして、往人の右肩がべっとりと血に塗れている。
全ての銃口は自分達に。――だが、観鈴だけは、震えていた。
晴子と、往人。傷の痛みか、怒りからか――仕留め損ねたからか。忌々しい表情を浮かべている。
確信。
平静を欠いた彼女の心理。平静を欠いた状況。
導かれる、最低最悪の予想。
"裏切り"。
「あんたが――」
殺気が走る。紫電を放ちかねぬ程に。風が起こりかねぬ程に。
血が巡る……巡る。
「あんたらが、撃ったのね――?
 最っ低……最初からっ、このつもりで……!!」
歪んだ。


どうも、少年の願いは届きそうにない。


【残り26人】

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