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会議


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よう坂神、御堂だ。まだ生きてるか?
まあ、お前が死ぬわけねえよな…俺以外のやつ相手によ。
既に待ちくたびれてたりはしねえだろうな?
悪ぃが、ちょっとしたチャンスだったからよ。
遅刻覚悟で寄り道させてもらってるぜ。

ここは前から気にはなっていたんだが、もっとやばい所かと思っていたんだよな。
ところが実際入ってみると、歯ごたえのある奴なんか、さっぱりいねえ。
あの硬ぇろぼっとの片割れがどっかにいるんだろうが、施設内まで入っちまえば
飛べやしねえから、多分外にいると思うのさ。

ちょいと見た限り、ここの構造はそんなに複雑でも無ぇ。
三本の筒を立てて、数階ごとに連絡通路が通してやって、地面に埋めてやりゃあいい。
昔の城砦ってのは高けりゃそれでよかったんだが、火力が強まるにしたがって、段々
平べったくなって来やがったから、そのうち地面に埋まっちまうだろうな、とか考えた
事があったが…もう、そういう時代なんだな。工兵は大変だろうな。

ああ、話が逸れたな。それで、だ。
俺達は通気口から地下一階に侵入して、B練って筒の一本を下へ下へと制覇してきた。
そんなに大きくは無ぇから、今では最下層って寸法だ。


「あー…倉庫ぐらいか?」
見取り図を前に、重要そうな部屋をあげつらう。
やはり物資の補給は現地調達に限る。

「ねえ、したぼく」
「げぼくね」
「げぼくだよ」
「げぼくだ」
…詠美のバカは、相変わらずバカだ。
繭ってガキと梓って赤毛にまで日本語を修正されてやがる。

「あたし、思うんだけど」
「げぼくよ」
「げぼくだって」
「げぼくだっつうの」
バカは死ななきゃ治らねえってのは、本当なんだな。
…どうでもいいが。

「ふ…ふみゅーん…げ、げぼくぅ…これなんだけど…」
さすがに三人がかりだと、コイツの減らず口もちったあマシになるようだ。
修正かましてやろうかとも考えたが、涙目になってやがるから大目に見てやって、仕方なく女が
取り出したブツを見てやる。
それは銀色の円盤だった。
しーでー、とかいうやつだ。

「それが、どうした?」
「これは、コンピューターとセットで使うものなのよ」
ガキもいつの間にやら取り出して、円盤をひらひらさせる。
「だから、ここにも寄って欲しいのよ」
ガキは、そう言って”まざーこんぴゅーたー”と書かれた一室を指差した。



若干強めの空調に逆らうように、その部屋は放熱を続けている。
いくつものファンが、わずかな風切り音を重ねて不快なコーラスを作り上げていた。
中央に位置するマザーコンピューターを介した、ひとつの端末で男は陰気に作業を始めていた。

「くそ…御堂は…どこだ?」
三名を候補に上げたまま、放置してあった端末を使い、今ようやく御堂の仲間を確認し終え、
内部の捜索作業に入り始めていた。
今になって、先ほどの三名がどうにも気になる。
しかし、そちらに手間をかけている暇はなかった。

普段はHM達にまかせっきりのセキュリティ関連作業を、源五郎は今、自分でやっている。
レーダーに従い、点在するカメラを使ってB練を上から虱潰しにチェックしていく。
とりあえず、御堂は自分の居る地下三階を通り過ぎて、さらに地下へと進んだようだ。
死角に居なければ、なのだが。

とは言え、それは根本的解決にはならない。
更に下の階へと捜査の手を進めようとしたとき、何度目かの呼び出し音が鳴り響く。
「…源之助さん、か?」
正直、出たくはない。
そう思って躊躇ったが、よく見れば内線だった。
「もしもし-----?」



「…構造から言って、最重要施設はマザーコンピューターなのでしょうね」
千鶴が、腕を組んで意見する。
地下三階の渡り廊下は三角形の各辺を担う通路だけではなく、三角の中央に向かって
伸びる通路も存在している。
その中心には、件のまざーこんぴゅーたーが構えてるってわけだ。

確かに、そこだけは特別な部屋のようだった。
どうせ倉庫を抜けて、通気口に戻るまでの通り道にある部屋だから問題は無ぇ。
「じゃあ、倉庫を荒らしたあとにでも寄るか」
A練、と書かれた筒を指でなぞって進路を定める。

ところが、千鶴がC練の一室を指差した。
「ここなんですけれど…」
C練のその場所を通るには、A練の倉庫を通った場合三階の渡り廊下まで到達し、そこから
再度降りなければならなかった。
千鶴は、露骨に面倒臭そうな顔をした俺に向かって話を続ける。
「わたしたちは仲間の他に…ある怪我人を捜しています。
 だから、この医務室に寄りたいのです」
「千鶴姉、それって…」
姉妹で何やら裏がありそうなことを言いやがる。
「余計なお世話なんだろうけど…危険要素の、排除にもなるわ」
千鶴は赤毛に言い聞かせるように、”排除”という言葉を使った。
「…何のことだ?」
キナ臭さを感じて、俺は二人に尋ねた。



医療機関特有の、鼻につく消毒液の刺激臭を漂わせた中に、おびただしい血の臭いを撒き散らす
存在があった。
どうにか縫合止血を終え、骨折部分にギブスを当てて、ベッドに身を沈めたまま、怒りに声を荒げている。
HM達に当り散らすも、いたって常識的な反応しか返さない彼女達では満足がいかなかった。
やがて男は内線電話の存在に気付き、引き千切るように受話器を掴み番号をプッシュする。

『もしもし-----?』
「源五郎かっ!俺だ!源三郎だっ!よくも俺を見捨てやがったな!」
『見捨てるも何も、あなたが勝手にやった事でしょう?
 そもそも私が、この計画自体に賛同していなかったのも、ご存知のはず。
 どこに、あなたを助ける義理がありますか?』
理路整然と答える相手に血圧を上げてしまい、せっかくの止血も意味が薄れてきている。
撒き散らそうとした不満を、かえって積み上げてしまう結果となっていた。

『それと…御堂が、侵入しておりますよ』
駄目押しの一言。何を隠そう、源三郎自身が勝利者になると予想した相手が御堂だった。
「な…に…」
『あなたの予想が正しければ、あなた生きてはいけないでしょうね。
 では、お互い命があったら文句の続きを聞いて差し上げます-----ご愁傷様』
ガチャン、と乱暴な切断音が響いて通話が閉ざされる。

「ぐ…く…」
わずかでも安心感を得ようと、無事な方の手に持っていた銃を確認するが、既に弾切れであった。

「う、うううう…」
今では原形を留めていない顔の、かろうじて残った頬肉を自ら掻きむしり、長らく迷った末に懐へ手を入れ、
ペン型注射器を取り出す。蛋白同化のみならず、原細胞の合成から分化異化までも強力に促進し、筋力や
再生能力を爆発的に増進する薬物。
しかし同時に、癌化やアポトーシス、ネクローシスまでも増進する恐れがあり、よもや使うまいと思って
いた、この悪魔の契約書にサインをするべきかどうか-----。

-----源三郎は、確実な死と恐怖の狭間で迷いつづけていた。



「ようするに、だ」
執事だった男は…坂神と勝負した後、仲間に殺された。
殺した方の男は、怪我人としてこの施設に居るかもしれない。
この施設にいる、あの硬ぇろぼっとを仕掛けた源五郎って奴は、坂神と勝負した男の息子だ。
「…ってことだろう?」
そう言って確認すると、赤毛が頷いた。
「ああ、そうだね。
 仇討ち無用とは言われているけど、放っておくには確かに危険すぎると思うんだよね」
それは赤毛にしては、まっとうな意見だった。

「そんじゃ、まあ…」
殺気を抑えて、頭を掻きながら千鶴の隣に移動する。
ここで裏拳でも、と思った俺を鎮めるように、女は言う。
「御堂さん…試すのは、やめてくださいね」
底冷えするような静けさを保ちながら呟く。

…やはりこの女、俺達同様に”イケるクチ”だ。
「そうかい…
 じゃあ、お互い心配は無用ってことだろ?」
「どういうことですか?」
「俺達は倉庫に寄る、あんたらは医務室に寄る。
 ついでに俺は、どっちかって言えば、源五郎の方に興味がある。
 先に行っちまってもいいだろう?」
要するにA練を俺達が上り、C練を千鶴達が上ればいい。

だが、千鶴が反対する。
「別行動は構いませんが…コンピューター室は、危険じゃないでしょうか?
 もし一箇所だけ警備するなら、出入り口かコンピューター室だと思いますから」
なるほど、筋は通っている。
結局、中間を取るように、あまり本気でもなく確認を取った。
「じゃあ地下三階で待ち合わせって事にすりゃあ、いいだろうがよ?」


「ねえ、おじさん?」
斜め後で、袖を引っ張りどおしのガキが、上目遣いで睨んでいやがった。
「三階で、また会おうね?」
「あー、そうだな」
適当に返事をしてやる。

「絶対、だよ?」
「あー、そうだな」
いつになく、しつこい。
いまだに袖を離そうとしない。

「約束、だよ?」
「あー、うるせえな!」
堪忍袋の緒が切れる。
手を振りほどいて、いつものように叫んでやる。

「…バカ野郎、俺が死ぬわけ無ぇだろうが!
 解ってるよ、俺がこのバカや幼児が先走りしねえように抑えて待っててやりゃあ、いいんだろうが!」
「ちょっと、先走りしそうなのはアンタでしょ!したぼくの癖に生意気よ!」
「動物じゃあるまいし…」

俺はその言葉を聞き流して、詠美のバカに言い返していた。
「じゃあなんだ!倉庫に桃缶があっても俺がいいと言うまで取るんじゃねえぞ!おあずけだぞ!」
「どうしてそこに、桃缶が出てくるのよ!」
「動物じゃあるまいし…」

動物じゃあるまいし、先走りなんかしません。
…思えば、そういう意味だったんだよな。

そうさ。
俺はこのとき、獣どもが入り込んでるだなんて…思いもよらなかったのさ。


【御堂組、倉庫を通って地下三階へ】
【千鶴組、医務室を通って地下三階へ】
【地下三階で待ち合わせてから、マザーコンピューター室へ突入を約束】

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