主のいない神社にて
結花たちがいる小屋から少し離れた所を、スフィーと芹香は歩いていた。
二人が外に出たのは、単に周りの様子を偵察するためだったのだが、
10分ばかり歩いたところで、急に芹香が立ち止まった。
「……」
「芹香さん?」
「……」
芹香はゆっくりと坂上の方を指さす。その先には、いささか古ぼけた鳥居が立っていた。
「あ、あれ…。もしかして?」
「……(こくこく)」
「うそっ」
「……!」
スフィーは芹香の手を引いて、その鳥居へと急いだ。
「あれだけ懸命に探してもわからなかったのに、見つかる時は結構あっさりだね」
「……」
急な坂道を駆け上がった先にあったのは、まさしく彼女たちが探していた神社。
リアンや綾香たちと共に結界の主と対峙したものの、南の手裏剣によって目的を果たせぬまま散り散りになった、あの神社だった。
しかし、芹香は感じていた。あの時とは違うと。
この島に来てからずっと感じていた圧迫感、すなわち結界の力は依然衰えていない。
しかし、あの時この古びた社に満ち満ちていた、悲しみにあふれた空気が今はないのだ。
つまりここにはもう結界の主―かんな…だっただろうか―は、いないのか?
芹香が思いを巡らしている脇で、スフィーはひとり舞い上がっていた。
「ねぇ、どうしよう? 結花を呼んでくる? それともすぐに結界を…って、聞いてる?」
さすがにスフィーも芹香の様子に気付いたようで、
「あのぉ…」
芹香の顔を覗き込む。
「……」
「えっ? う〜ん、そう言われてみれば…」
あたりをキョロキョロと見回して、
「なんかあの時と違うね。あ、でも、何が違うかと聞かれても…」
「……」
「えっ?」
「……」
「ってことは…」
「……」
「そんなぁ……」
それまでのはしゃぎ様から一転、スフィーは思わずその場に座り込む。
「あ、ってことは、もう結界もなくなったの?」
「……」
「それもないんだ……」
今度は、パッタリと仰向けになった。
「あ〜あ、結局振り出しに戻っちゃったね」
仰向けのまま、スフィーは誰に言うとでもなくつぶやいた。
「……」
その隣にしゃがみ込んだ芹香が、そっとスフィーの頭をなでる。
「それで、これからどうしよう?」
「……」
「うん、あの人を捜すのはわかるんだけど、当てはあるの?」
「……(ふるふる)」
スフィーは、「ふぅ〜」と大きなため息を付くとむっくり起きあがった。
「何はともあれ、とりあえず結花に報告しようよ」
「……(ふるふる)」
「まだ何かあるの?」
「……」
ちょっと待って、と言って芹香は一旦その場を離れると、しばらくして鞄を一つ抱えて戻ってきた。
「その鞄は?」
「……」
「あ、そうか。芹香さん、南と戦ったときに鞄を置いてきてたもんね」
鞄の中身はほぼ残っていた。理由は解らないが、注射器と白い粉だけがなくなっていたのを除いて。
「……」
「うん、はやいとこ報告しなきゃ」
二人は早足で坂道を降りる。結花の待つ小屋に向かって。
もちろんその小屋がただ事でなくなったことなど、二人に知る由はない。
【芹香:自分の鞄を回収(注射器・白い粉は紛失)】
【結界の主(神奈?)行方不明。ただし結界はそのまま】