もう、届かない
ビスビスッ!!
奇っ怪な、何か肉を刺すような音が響いた。
「あ……」
「な、な……」
ゴトリ…何かが音を立てた。
「な…なにしてんだよ!レミィ!!」
「アッ……」
幸せは、手の中から逃げていってしまった。
こんな島でも、確かに心を拠らせることのできた暖かい場所。
そんな幸せが逃げてしまっていったことが、あまりに悲しくて。
取り戻そうと、もがいた。
「どうして…なんで!!」
北川の絶叫が響く。
「ジュン…ワタシ…ワタシ…」
声の聞こえた方へ、目を向けると、そこにはレミィが望んでいた場所が広がっていた。
「何で、こんな…」
祐一の声が、どこか遠く聞こえた。
幸せは、形あるもの。だから、いつだって取り戻せる。
探して見つければ、いつだって幸せは手に入るものなんだ、と。
レミィは思った、思っていた。
飛び立っていった青い鳥も、必ず取り戻せると信じて。
「いきなり…撃つなよっ!なんでっ!」
祐一と北川からは、一部始終しか目撃できなかった。
レミィが小屋へ侵入し、結花に狙いを定め、そして逃げようとした結花を躊躇なく撃った。
それは悲しいすれ違い。…それでも、結花が撃たれ、倒れたことはまぎれもない事実。
「あ…ワタシ…ワタシ…」
形のあるものは、すべて壊れてしまう。
ドン!!
銃声が響いた。
「ア……」
「ガハッ…」
息も絶え絶えに、最後の力を振り絞って。
胸から真っ赤な血を滴らせた結花が、レミィに銃を向けていた。
「あんた…なんか…に…」
「ア…ジュン…ワタシ…」
「れ、レミィ!!」
腹を押さえて、一歩、二歩、扉の方へと…
ドン!
また、銃声が響いて、レミィの背中が跳ねた。
「結花に…何するのよぉっ!!」
震える体で振り向いたら、小さな女の子の影。
スフィーの瞳の中には、銃を構えて立ち尽くすレミィと、血を流して倒れている結花の姿だけが映っていた。
幸せは、形なんてなかった。
青い鳥がいたとしても、幸せになんかなれやしない。
北川を一瞬だけ見て。
(幸せは、私達の心の中にいるんだヨネ?ジュン…)
形あるものはすべて壊れる。幸せに形なんてなかったから。
幸せは手の内に仕舞ってしまえば、ずっと壊れることなんてないと、思っていた。
だけど、幸せが壊れるのは一瞬だった。
(ジュン、ワタシ、幸せだったカナ?……ワタシはね、幸せだったって…)
―――――レミィーーっ!!
暗転する視界の中、最後にそう聞こえた。
それは、ワタシの求めていた幸せのかけら。
【094 宮内レミィ 死亡】
【残り25人】