スカイブルー


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「それじゃ、行きましょうか」
「そうね」

私達は高槻達の死体がある場所へ向けて出発した。
何か手がかりがあるといいんだけど。
「ねぇ、晴香。何か手がかりあると思う?」
「まぁ、無かったらその時はその時よ」
「ま、それもそうね」
晴香とそんな軽口を叩きながら歩いていた。

ふと空を見上げてみた。
青い空。流れる雲。まぶしい太陽。
まるでこの島で起きてることが嘘みたいに穏やかな空。
それでも今の状況は現実でその証拠に私のトレードマークだったお下げはもう無い。
いつも折原にいたずらされて、それでもちょっとだけ構ってくることが嬉しかったあの頃。
もう、取り戻せない日々。

−−浩平を守ってあげられる七瀬さんのことがうらやましいよ−−

そう言ってた瑞佳は最後に折原のことを守って死んでしまった。
その折原もここに来る前に同じクラスだった里村さんに殺された。
里村さんを恨んでいないと言えば嘘になる。
もし私が里村さんのことを話していればあいつは死なずに済んだかもしれない。
それでもあいつは言っていた。

−−……すまない七瀬、茜を許してやってくれよ……−−

分かっていたことだけど、あいつはやっぱりバカだった。
自分のことよりも他人のことを優先するバカだった。
ナイフで刺されたのに自分のことよりも里村さんのこと、そして私のことを気に掛けていた。

「どうしたの?七瀬?」
隣にいた晴香が声を掛けてきた。
「ううん。何でもないわよ」
「そう?」
そう言って晴香はそれ以上何も聞いてこなかった。
そんな晴香の優しさに今は甘えることにした。

あいつの言葉を思い出す。

−−柚木詩子とそれから祐一ってヤツを探してくれ−−
−−茜を頼むって伝えてくれよ、俺じゃどうも駄目みたいだ……−−

今は無理だけど、もしどこかでその人達に会えたらちゃんと伝えなきゃね。
それが折原の最後の頼みだったんだから。
繭のことも見つけられたらいいな。
どこかで泣いてないといいけど。
ひょっとしたら繭は私のことが分からないかもね。
だっていつも繭が引っぱっていたお下げはもう無いから。
代わりに折原がくれた瑞佳のリボンをつけてるけど。

もう一度空を見上げてみる。
どこまでも高く、すいこまれそうなほどに純粋な青。
もし天国がこの空の上に在るとしたら。
折原と瑞佳は私の事を見守ってくれてるのかしら。
二人ともバカがつくほどお人好しだったから。
それとも見ているこっちが馬鹿馬鹿しくなる会話を繰り広げてるかもね。
安心しなさいよ、二人とも。
私は大丈夫だから。


「七瀬、もうすぐ着くわよ」
晴香に声をかけられて私は現実の世界に引き戻された。
さあ、感傷に浸るのはここでおしまい。
センチメンタルな気分に浸るのも乙女って感じで悪くは無いけれど。
そんなことは帰ってからでも出来る。
今は晴香と、そしてこの島で知り合ったみんなと生きて帰るために。
失った日常はもう取り戻せないけど。
それでもこの非日常の世界から抜け出すために。
自分に出来ることからやっていこう。

−−お前は生き残ってくれよ……七瀬−−

分かってるわよ、折原。
なめないでよ!
七瀬留美なのよ、私!


【七瀬留美 巳間晴香 高槻の死体放置場所に到着】

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