喪失
物言わぬ肉片となった金髪の少女。
それが誰だったかなんて、どうでもいい。
重要なのは、結花が撃たれて、倒れた。
それだけ。
「結花……結花ぁっ!」
必死で、呼びかける。
ゆっくりと、あたしの手に手が重ねられる。
恐らくは、やがていなくなってしまうその人の、最後の……温もり。
でも、あたしは…それを認めたく、無い。
「スフィー……ゴメンね…」
その声は余りにも弱々しく。
やがて来る喪失の予感に、あたしの目から涙が溢れた。
「やだよ……結花、死んじゃ……死んじゃやだ……」
ぱたぱたと、重ねた手に雫が落ちる。
瞳だけ動かしてそれを見た結花が、蒼白な顔で、笑った。
「私は、魔法も使えなかったし…結局、足手まといになっちゃったけど……
これくらいなら、しても……いいよね?」
そう言うと、重なった結花の手が、背中に回り、
あたしを、優しく抱きしめた。
「はぁ……ずっとこうしていたいわ…」
穏やかな表情。穏やかな口調。いつもと変わらない結花が言った。
……ただ一つ、胸に数本の釘が刺さっていることを除けば。
「いいよ……ずっと抱きしめてて…いいから……」
その言葉に、結花がまた笑って、
「……名残惜しいけど…ちょっと、無理みたいね」
そう言った瞬間、口から紅い血の花が咲いた。
「結花っ!」
あたしの顔にも血が降りかかる。だけど、そんな事は気にしていられない。
「結花っ!死んじゃやだよ、結花ぁっ!
……けんたろもリアンも、もういないのに……結花までいなくなっちゃうのは……やだよ…」
それも最早叶わぬ事なのだろう。それが分かっているだけに、涙が止まらない。
結花が、血で真っ赤に染まった手であたしの頭を撫でる。
そして、
「…ゴメンね、スフィー……」
その手が、落ちた。
「…………結花?」
答えるものは、もう、無い。
もう動かないそのひとの小さな胸の中で、あたしはもう一度、泣いた。
【009 江藤結花 死亡】
【残り24人】