分析
かこん、からん、かん、かかん。
一瞬前まで全ての幸福を象徴するかのように、芳しい香りを振り撒いていた桃缶が、
その人生を終え床に伏したとき。
無愛想なまでに何の飾りも無いまま続く廊下に、アクセントを与えるべく、無数の銃弾
が壁面に喰らいついていた。
犯人は、倉庫の中。
弾薬ベルトを背負い、暗いオレンジ色の照明を浴びて無感情に立つHM-13。
その瞳孔の奥に、ときおり輝く光だけが、今も作動している事を示していた。
御堂たちは、一連の銃撃をかわしきり、なんとか倉庫内に転がり込んでコンテナの陰に
隠れている。
(あ…あたしのあたしのあたしのも、ももも桃缶が桃缶が!)
桃缶が桃缶が桃缶が!
リフレイン。青ざめて虚ろに叫ぶ詠美。
(桃缶ひとつで発狂してんじゃねえ!)
(あなた、そういうキャラじゃないでしょう…)
御堂が吠え、繭が呆れる。
-----それでも一応、みんな小声。
水平に、正確に水平に首が廻り、あたりを窺う。
その鋭敏な聴覚で、下らぬ会話を捕らえたが共鳴が酷く位置を特定できない。
測るように左右に首を振る動きが、やはり機械である事を証明している。
(ふみゅーん…したぼくぅ)
(げぼくだっ!
…つうか遊んでる暇はねえんだよ。
とりあえず俺の銃は使えるとして、ガキ、お前ぇは何を持ってんだ?)
こそこそとコンテナの裏を駆け回りながら、打開策を練るべく御堂が確認を取る。
(硫酸銃と、替えのタンク。秋子さんが持ってた機械と、CD3/4。
他は水と食料ね。置いてきた物は、オッサンも知ってるでしょう?)
血塗れの札束とか、火炎放射器とか、と付け加える。
ワックスの光沢が目に眩しく反射する中、動物達は猛烈な勢いで走りはじめた。
この島に来てからというものの、お馴染みになった銃声に引き寄せられるように
二匹が疾走し、一羽が飛翔する。
「クワ、カァーカァー?」
『本当に、こっちなのですか?』
「ぴこぴこぴっこり。ぴこぴっこり」
『この騒音からして間違いない。嗅覚など使うまでも無いな』
「うにゃにゃ?うにゃん」
『さっそく始めているというわけか?困った連中だ』
「ぴこぴこ、ぴっこりぴこぴこ」
『人間どもが愚かなのは、今に始まった事ではないぞ』
「カァ。カァー」
『確かに。早く行きましょう』
「ぴっこ、ぴっこぴこぴこ。ぴこぴっこり」
『俺達が居ないと、奴ら何回死んでるか解ったもんじゃないからな。世話が焼けるぜ』
距離をおいた冷静さを装いながらも、人情味に溢れた会話をしながら、動物達は転がるように
倉庫へと突進していた。
ズダダダダダダダダダダダダダァン!!!!
再び射線が合い、危ういところで逃れる御堂たち。首を竦め、三人転がるように逃げ回る。
とにかく相手の火力が強すぎて、この直線的な倉庫内では応射することさえ危険だった。
(ちっ…火炎放射器なんざダルくて持ってられるか、とは思ったが…
こんなろぼっとが、まだまだ居やがるなら持って来りゃ良かったな。
感覚器だけでもイカレればみっけもんなんだがよ)
(そうね、この通路の狭さと短さなら、有効だったかもしれないわね。
これも効くだろうけど、当てに行って蜂の巣は勘弁よ)
繭は硫酸銃を構えながら、現実的な分析をする。
御堂たちの代わりに犠牲になったコンテナから、じょろじょろと濃い液体が漏れ出す。
その特有の臭気があたりを埋め尽くす中、液が身体にかかるのも構わずHM-13は移動し、
にちゃり、にちゃりと不快な足音を立てながら、顔色ひとつ変えずに目標へ接近していた。
(CD4/4と、ぽちよっ!)
大きく遅れて、詠美が宣言する。
(お前ぇにゃ聞いてねえよ…とにかく、こっちが有利なのは数だけだ。
分かれて、挟むしかねえな)
(そうね、このままじゃジリ貧よ)
老けた男と子供が冷静な会話を続け、年頃の少女がイジケる奇妙な光景がそこにあった。
(コラ、イジケてんじゃねえよ、お前にも大役を授けてやる)
御堂はこつん、と詠美の頭を叩き、意識を自分のほうに向けさせる。
ちょっと借りるぜ、と繭の硫酸タンクを二つ取って、一つを詠美に渡した。
(ああいう相手には手榴弾が最適なんだが、贅沢は言えねえ、コレを使う。
奴の長所は火力、早くて精密な射撃、鋭敏な索敵能力、ってとこだな。
それを踏まえて、だ…)
小声で御堂が指示を与える。
人事を尽くし、天命を待つ。
常にそれを行う限り、人は能力に見合った結果を得ることができる。
-----たいていの、場合は。
【動物達 間もなく到着】
【御堂 デザートイーグル、ナイフ、硫酸タンク一つ】
【詠美 ぽち(Cz75初期型、なんてどうでしょうかw)、CD4/4、硫酸タンク一つ】
【繭 祐一のエアーウォーターガン(硫酸入り)、硫酸タンク、秋子の機械(電源OFF、実はレーダー)、CD3/4】
【HM-13 M60デスマシーン】