北川潤の友達大作戦(嘘)


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俺の首には刀身が。
彼女の首には釘打ち機が。
まさに一触即発と言うヤツだ。
…しかし。
俺のしていることって、正しいんだろうかねぇ。
「殺しても生き抜くつもり」ってのは、
裏を返せば、相沢の言っていた「主催者側の思う壺」って事になるんじゃなかろうか。
レミィも、結花も、相沢も、結局みんな主催者の手のひらの上で踊らされていたって事になる。
……それは、悔しい、な。
なら、俺一人でも……その手から飛び降りて暴れまわってやるべきじゃないのか?
例えそれが、三蔵法師の手のひらの上で得意げに飛び回る孫悟空の行為そのものだとしても。
…なら、まずは「この島のルール」を破らなくちゃならない。
つまりは、こう言う事。
「ほっ」
左手を、ぱっ、と開く。
当然、がしゃり、と音がして、釘打ち機が地面に落下する。
突然の行動に反応したのか、刀身がぴくり、と動く。
………あぶねぇ、あぶねぇ。
格好よく決意した次の瞬間に殺されちゃあ、格好悪いからな。
「……何のつもり?」
釘打ち機に一瞬だけ目線を泳がせて、彼女が口を開く。
依然として、その刀身は俺の首筋から離される気配は無し。
それじゃあまあ、とりあえず、身の安全の確保だ。
両手は……上がらないので、左手だけ高々と上げる。
コイツが今の俺の降参ポーズ。もしかしなくても凄く変だ。
下手すると降参の意志有りととってもらえず、無慈悲に刀が横に移動するかもしれない。
……そうなると、痛い、と言うか、遺体になってしまう。
そりゃ怖い。なので、とっとと言っておく。
「降参だ」

そんな訳で、また捕虜である。俺はMか?
……兎も角、死ななかったんだ、それでいい。
ゆっくりと信頼してもらって、それで縄を解いてもらえばいいさ。
…では、信頼されるにはどうするべきか?
そう。コミュニケーション、言葉のキャッチボールが必要よ。
「それじゃ、自己紹介と行こうか」
出来るだけ明るく言ってみる。
「……」
あからさまに冷たい眼で見られてしまった。人は分かり合えないのか?
えぇい、構うな!突撃あるのみだ!
「俺、北川潤って言うんだ。気安く潤って呼んでくれ!ダーリン(はぁと)でも構わんぞ」
「…………」
ううっ。紫髪のねぇちゃんの視線が痛いよぉ。
……おや?
多少離れていた青髪のショートカットのねぇちゃんと眼があう。
「……!」
すぐに、逸らされる。
……照れ屋、とは、ちょっと違うよなぁ。
「……巳間晴香よ」
「は?」
しまった。青髪のねぇちゃんに気を取られて、間抜けな返答をしてしまった。
どうやら紫髪のねぇちゃんはカルシウムが足りないらしい。青筋を浮かべるほどの怒りだ。
深呼吸ひとつ、ふたつ。ようやく怒りが収まったのか、紫髪のねぇちゃんが改めて自己紹介をする。
「……巳間晴香よ、北川君」
「是非ダーリンと呼んでくれ」
「…何か言った?北川君」
「冗談です、晴香さん」
だから、刀身を首筋に当てるのは勘弁してください。
「…ふーん、そう」
意外にもあっさり刀身は離れた。俺は助かったのだ!
そして、晴香さんがもう一人の青髪の方に目線をつい、と動かす。

「ほら、あんたも自己紹介しなさいよ」
あぁ、なんて親切。ありがとう晴香様!
ところが、あの青髪。
「げっ」
と、抜かしやがった。
「げっ」って何だよ、「げっ」ってのは。そんなに俺が嫌いですか?
酷いや。初対面なのに……
初対面なのに…アレ?
「ちょっと、名前忘れたって訳じゃないんでしょ?」
痺れを切らしたのか、晴香さんが語気を強める。
「うん、そりゃ、まあ、そうだけど……」
対する青髪はどうも歯切れの悪い言葉。
「だったら早く自己紹介ぐらいしなさいよ、なな」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
キィ―――――…ン。
な、なんちゅう声出しやがるんだ、あの女!
「ちょっと、何いきなり叫んでるのよ!」
ほら、晴香様もご立腹だぞ。
「あ…、ゴメン」
反省する青髪。意外と素直だ。
…しかし、名前を聞かれたくない理由でもあるのか?
むぅ……なな…なな、何だ?
「名無しさん」
「違うわっ!」
……沈黙。
「…………あ」
慌てて下を向く青髪。
……と、いうか。
「…もしかして、七瀬さん?」
「……う」
……どうやら、当たっていたらしい。

それで。
一応七瀬さんの知り合いと言う事で、俺の縄は解かれた。
流石に武器類は返してもらえなかったが、まあ、仕方ないだろう。
そう、ここから先は、努力次第ってヤツだ。
「まさか、あんたたちが知りあいだったとはねぇ……」
「……まさかこの島でコイツに会うなんて……悪夢だわ…」
七瀬さんがはぁ、と溜息を吐くが、無視。
「そう言えばですね、晴香さん」
「ん?何よ」
「これは、彼女が我が高校にいた時の秘話なのですが……」
「ちょ、きたが…むぐっ!」
即座に晴香さんが七瀬さんの口を塞ぐ。ナイス!
「彼女は、『うっかり転んでしまって、それを見ていた男のひとに優しく起き上がらせてもらう…これこそ乙女ね』と言う、
訳のわからない持論を持っていてですね……」
「むぐ〜〜っ!」
「ふんふん」
七瀬さんの口を塞ぎながら、晴香さんが相槌を打つ。
「…それで、何と彼女、それを実践してしまったのですよ!……通学路で一番の下り坂で!
冬場の凍りついた路面は転んだだけでは止まらず、彼女はごろごろと雪を吸い込みながら坂道を……」
「あははははははは!」
「やめんかぁぁぁぁっ!!」
爆笑した晴香さんの手が一瞬緩み、次の瞬間には。
ごつん、と。
鈍い音が、響いた。

「…いやぁ、あんたって案外面白いのね…」
ところどころに、(笑)を挟みながら、晴香さんが言った。
「……だからコイツには会いたくなかったのに……」
まあそう言わないでくれよ、七瀬さん。熊も殺せるパンチは未だに健在じゃないか。
「殺せんわッ!!」
しまった…声に出していたのか。
なんてベタな落ち!
とか考えてる間に、もう一発、クリーンヒット。
……目の前の風景が歪む。
意識が薄れてゆく。
……兎も角、俺は彼女らとなんとか打ち解けられたようだ。
…良かった良かった。
だから、ちょっと寝かせて。ご褒美に。

そうして、俺が意識を失いかけた、その時――
俺の意識を現実へ引き戻す出来事。
そう、放送が――始まった。

【残り23人】
【北川潤 武器類没収】
【正午】

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