引火 銃撃 腐食


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倉庫と呼ばれる胃袋…コンテナから滴る液体は、彼らを消化するかの如く、ゆっくりと広がりつつあった。
そのその中では鋼鉄の死神が鎌を構え、御堂達の隠れている一番奥のコンテナに狙いを定めていた。
(いいか、作戦はこうだ、テメェらは奴の足元に硫酸の容器を投げつけろ。
 俺はその容器の側に爆弾を転がす、その爆弾を打ち抜けば…)
(なるほど、爆弾の炸裂の衝撃でボトル内の硫酸を浴びせかける…そうでしょ?)
(え?え?どういうワケ?)
(…つまりだ、ろぼっとの足元に『それ』を投げればいいんだよ…)
(なぁんだ、簡単じゃない)
(バカかお前は。この状況でそれができるか!)
(へ?何で??)
(…見てろ)
詠美そう言うと御堂はスッと、手を上にかすめた。それを待っていたかの如く、
ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダァン!!!!
先程、御堂が手を伸ばした空間に鉛玉が飛び交った。
(ほらな。この状況で立ってその容器を投げつけるなんざ、自殺行為同然だ。そんなことも分かんなかったのか?)
(ち、違うわよっ!私だってだいたいそうだと思ってたんだけど、いちおー確認とっておこうかな〜って、思っただけよ!!)
(お前なぁ…いい加減、そうやって屁理屈こねて自分の失敗隠そうとするなよ…)
御堂はあたかも彼女に父親のような口ぶりで詠美を叱った。
(う、うるさいわねっ!私には女帝としてのプライドっていうのがあるのよっ!アンタなんかとは格がちがうんだからぁ!)
(だから、そういう――――――)
(…オッサン、今思ったんだけど、爆弾なんて何処にあるのよ?)
繭がいぶかしげな表情で御堂と詠美の口喧嘩に割って入り、尋ねた。
(何?爆弾?けっけっけ、テメェもやっぱりガキだな)
繭はガキという言葉にムッとして、御堂に再度訪ねた。
(いいから、何処にあるのか教えなさい。作戦に支障をきたすでしょ?)
(あるじゃねぇか、とっておきのがここに…よっ!)
ドン!
御堂はそう言うと自分の腹に拳をねじ込んだ。
(ちょっと!アンタ何やってんのよっ!?)
(…なるほど、オッサン、意外と頭いいじゃない…)
御堂の行為に対して対照的な反応を見せる二人…そして御堂の口から銀色の球体が零れ落ちた。
(へへ…こいつだ…これも立派な爆弾だろ?)
(爆弾のことは分かったわ。…でも、その前に私達がローストビーフになるかもね…)
(何?)
鼻をつく異臭…倉庫内に充満した揮発性のガス…
そう、はじめ御堂達が隠れ、HM−13の弾丸によって打ち抜かれたコンテナに入っていたもの…それはガソリンであった。
「………倉庫内部、ガソリン充満。火気厳禁、火気厳禁。至急退却後、ターゲットヲ、倉庫ゴト破壊シマス」
HMも異変に気付いたらしい。彼女はゆっくりと後退していく…この危険地帯から逃れるために。
(はぁ…何てこった…待ってりゃ火あぶり、進めば蜂の巣…状況悪化だぜ)
(え?何?なんなの?)
(もう…おしまいね)
無知なことは幸せである典型な詠美、冷ややかな顔をして絶望する繭…
しかし御堂は、まだあきらめていなかった。勝負は最後まで分からない…戦うためだけの存在である彼だけはそれを知っていた。
この部屋の守護神は今、守るべきものと共に御堂達を葬るため、扉の開閉パネルに手を伸ばした。
ィイイイ…ン
この後、倉庫に銃弾を2、3発撃ち込めば任務完了…のハズであった。
「ぴこーーーーーーーーーーーー!!」
「カァァァァァァァーーーーーッ!!」
「うにゃあーーーーーーーーーー!!」
彼女が扉を通るよりも早く、2匹と1羽が倉庫内に飛び込み、思いっきり彼女にぶつかった。
ドンドン、ドン!
「!?」
その瞬間、HMに隙が生じた。わずかに、本当にわずかに動物達の存在に驚き、御堂達が潜むコンテナから目を離しただけであった。
だが、御堂はその一瞬を見逃さなかった。
(あの獣共が!おいしいところ持って行きやがって!)
腰のナイフを抜き、地を蹴り、信じられないスピードでHMとの距離を縮めた。
「!!ターゲット補足!攻撃――――」
賢明なロボット…彼女はあえて発砲しないで、M60を御堂の頭部めがけて振り下ろした。自己防衛のためである。
ガチィン!
御堂のナイフと、HMの銃がぶつかり合い、軽快な金属音を奏でる。
HMの振り下ろした銃身を、御堂が受ける形となった。
ギギギギギギギギギギ…
だが、上と下では圧倒的に下のほうが分が悪い。御堂はジワジワと押されていた。
さらに力を込めるHM…体重が一気に御堂のナイフにかかった。だが、御堂はこの瞬間を待っていた。
「よぉ、お嬢ちゃん…そんなに力むとケガするぜ…」
シュッ!
「!?」
いきなり御堂はナイフを銃から離した。力の均衡が失われ、バランスを崩すHM。
さらに御堂は彼女の持っている銃に手を回し、
「いいモン持ってるじゃねぇかよ、よこしな!」
ザムッ!
M60を吊るすベルトを切り裂き、鋼鉄の死神の手から強引に奪い取る。極めつけは、
ドン!
体当たりである。
そのままま出入り口までHMごと押し進む。だが、扉が閉まっている。とっさに御堂は近くにいた獣達に向かって叫んだ。
「扉を開けろぉ!!」
その言葉に反応したのは…毛糸玉だった。
「ぴこっ!」
毛糸玉は飛び上がり、開閉パネルを押す。
ィイイイ…ン
廊下へ繋がる扉へ突進し、倉庫から脱する御堂と鉄人形。
倉庫から出ればこっちのものだ。銃を撃っても倉庫内の揮発したガソリンに引火する恐れはない。
御堂は先程強奪したM60で遠慮なく撃った。
ズダダダダダダダダダダダダダァン!!!!
銃弾を至近距離から受け、HMは吹き飛ばされた。
タイミングよく、詠美と繭が倉庫から飛び出してきた。
「アンタばっかり、活躍してんじゃないわよっ!」
「オッサン!爆弾、ちゃんと撃ち抜いてよね!」
カコン!カコン!
2本の硫酸ボトルが鋼鉄の死神の後方に転がる。
御堂はそれを確認するとピッ!と、ナイフを持った手の親指から体内爆弾を弾き出した。
そんな事は気にも止めず、ゆらりと立ち上がり、マカロフと呼ばれる拳銃を取り出すHM…
「ターゲット…ホ…ソク攻撃…シマス」
「倉庫に戻れ!早く!!」
詠美と繭は慌てて御堂の言葉に従い倉庫に戻る。
「扉を閉めろぉ!!」
「クワァ!」
鳥類がクチバシで器用に開閉パネルを小突いた。
ダゥン!ダゥン!ダゥン!
HMの放った銃弾の二発は扉にめり込み、一発が御堂の右足を捉えた。だが、御堂は動じない。
「へたくそ」
ドゥン!
御堂のデザートイーグルが火を吹いた。弾は生き物のように体内爆弾へ向かってゆき、
バグォォォォン!!!!
炸裂。側にあったボトルからはあらゆる方向に強酸を撒き散らした。
バシュウウウウウウウウウ………
HMは後ろから濃硫酸をかぶり、背中から煙を噴出させた。体をガクガク揺すり、膝をつく。
「背部に…腐食性ノ…エキタ…イ…フチャ…ク…防弾…装甲…79%…損失…ナオ…モ…シンコ…ウ中…」
(自分が死にそうだってのに被害状況を報告してやがる…軍人の鏡だな)
御堂は彼女の最期を見届けず、倉庫へ戻った。



【倉庫警護用HM 破壊】
【M60デスマシーン 強奪 弾切れ】
【御堂組 獣組と合流】
【御堂 右足負傷】

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