施設最終戦〜血戦〜
「ゲッ…?なんだっ!?」
御堂の体を刺し貫く赤いレーザー光線。
腹から、背中へと突き抜けて、壁を照らした。
「お、おじさん!?」
その光景に繭と詠美は、御堂へと反射的に駆け寄る。
すべての音が、消失した気がした。
源五郎がよろめきながらも御堂を見据える。
「御堂…さては…お前――死んだな!?…クソッ!!」
顔を苦痛に歪めながら、口元から血を滴らせながら、前方へと体を滑らせる。
「……!?」
銃弾の命中した衝撃でちぎれた白衣の下から、黒いチョッキが顔を覗かせる。
恐らくは全身タイプの高性能の防弾服。
「馬鹿野郎!来るんじゃねぇ!!」
御堂に手を伸ばした二人を目の端で確認すると、狂ったように下がれ、と腕を振った。
御堂を刺し貫いたレーザー光線は御堂に何の害も及ぼさなかった。
そして、『お前、死んだな!?』という台詞の意味。
繭がその時初めて理解した。
(もしかして今のレーザー光線は…体内爆弾を…?)
そして、自分が、自分だけが置かれている状況を。
滑るように前へと進む源五郎の瞳が、曲がり角から姿を現した繭と詠美、そして動物達の姿をとらえる。
「死ねっ!!」
銀色のレーザー銃を、今唯一の生き残り、繭へと向けた。
その玩具にもみえる銃は、ほとんど重量がないのだろう。
その手に何も持っていないかのように、片手で軽々と彼女の腹へと照準を合わせる。
「ちぃっ……!!」
御堂もまた、そのレーザーの意味を理解した。
刹那、一気に一足飛びで後方へと体を流す。
先の一撃で倒せなかったのは、いわゆる西部劇の抜き撃ちを真似た御堂の失態だった。
――それでも頭を狙っていれば確実に倒せたのだが。
御堂の油断、慢心が呼んだ大失策。
本人は気づいてないが、その過信こそが光岡に、岩切に、そして蝉丸にどうしても実力が及ばない決定的な理由だった。
源五郎を再度撃てば確実に倒せる時間はあった。
だが、それをしてしまえば、先程のレーザーの反応速度から考えて、繭は確実に死ぬ。
以前の御堂であれば、繭を見捨てて、源五郎を殺していたのだろう。
今の御堂は、考えるよりも前に体が動いていた。
「死ね、女!」
「ガキ!悪く思うなよ!!」
ほぼ同時だった。どちらが早いかは常人には判別できないレベル。
ドスッ…
「あっ……」
着地と同時、後方に体を流したそのままの勢いで、繭の腹に渾身の肘打ちを見舞った。
そして、繭を刺し貫くレーザー光線。
赤い光が繭の体を貫通し、背後の壁へと高速で走り抜けた――。
グラッ…
繭は、前のめりに声もなく倒れ――
カラン…
一瞬遅れて、金属音。
「キャッ……」
詠美の悲鳴だけが短く響いた。
爆発音は、ない。
「……御堂ぉ〜っ!!」
源五郎が銃の引き金を押しっぱなしのまま腕を下へと滑らせる。
通路を刺し貫いたレーザーが、サーベルのように地面へと突き刺さる。
そして、それは一気に爆弾へと向かった。
繭を光が刺し貫いた時から、その間わずか1秒。
御堂は殴りつけた格好から流れるように、倒れゆく繭の制服の襟を引っつかむ。
「詠美!おめぇらもだ!!」
さらに、詠美達を壁際へと突き飛ばし、そのまま繭をも投げっ放す。
「にゃっ!?」「ピコッ?」(バッサバッサ?)「きゃあっ!!」
御堂自身もむりやり後方へと体を流す。
後方に一足飛びしてから、そこまでで一連の動作だった。
「……御堂ぉ〜っ!!」
「詠美!おめぇらもだ!!」
「にゃっ!?」「ピコッ?」(バッサバッサ?)「きゃあっ!!」
その同時に発せられた三者の叫びが終わらない内に、
ビームサーベルと化した赤い光が、真っ二つに切り裂くかのように爆弾と交錯した。
ドガーーーン!!
爆音。
御堂の体の位置は、爆心地から約3メートル。
小さいながらもそれなりの威力を誇ったその爆風に
きりもみしながら吹き飛び、壁へと叩きつけられた。
「ゲェ〜〜ック!?」
火に強い火戦躰とはいえ、結界の内部では常人のそれとほとんど変わらない。
逃げ遅れた下半身に鋭い痛みを感じる。
カチリ…
爆音に紛れ、何かのスイッチが押される音。
「ぐぅ…!!」
なんとか上手く着地し、態勢を立て直す。
着地の衝撃で、焼けただれた足がジュクリとイヤな音を立てる。
「くそが…」
爆風の向こう、源五郎の姿を見据え――たと同時に、御堂は転進した。
立ちこめる爆煙の向こうに見えたシルエット。それは…
「おのれ、御堂っ…!」
壁に隠されていたスイッチを手の甲で叩きつける。
ウイーン…
青銅色の床が開き、中から黒い物体が飛び出してくる。
源五郎がここで御堂らを待ち構えていた最大の理由。
戦闘型HM達が倒れた今となっては、この施設最大最後の切り札。
「…私はここでもう終わりだ…だが、せめてお前も挽肉にしてやる…!!」
壁に叩きつけられもんどり打っていた詠美を半ば無理矢理立たせる。
「ふみゅっ……!!」
「逃げろっ!!」
それはほぼ絶叫に近い。繭を担ぎ、詠美と動物達を促す。
「……っ!!」
この時ばかりは、機敏にそれに従った。
詠美にとって、御堂の初めて見る焦燥だったから。
詠美が走り出したのを確認してから、御堂が繭を反対側の通路へと投げ捨てた。
詠美、繭、それぞれ別方向の通路へとバラけてしまったが、それぞれ源五郎の持つ切り札からは届かない場所へと
退避したこととなる。あとは、御堂自身だった。
戦闘力皆無の二人(と三匹)を無理矢理弾き飛ばした、そして全身を痛めつけられた状態では、御堂にも勝ち目はなかった。
今の御堂は、普通の軍人よりもはるかに強いとはいえ、ただの人間であったから。
銃を撃っても、手榴弾を投げても…この態勢からでは、あの武器相手に相打ちに持ち込めればいいほうだろう。
しかも応戦すれば、御堂を含め、こちらは全滅するのは確実だった。
「軍部は滅んだ…それでもお前はのうのうと生きるというのか…
…数多くの人間を殺したお前は私と同じ穴のムジナだ…
お前達だけでも…殺してやる!!」
手塩にかけて育てた娘はもういない。施設も御堂達に攻略寸前まで陥とされてしまった。
もう、長瀬としても存在価値などありはしない。
失うものなど、何もなかった。
「今ここで散れ!御堂っ!!」